2005年05月20日(金) 旅


旅行のことを考えると、いつも心をぎゅっと締め付けられる思いがする。

わたしは旅行に行っても、ぜんぜん特別なことをするわけではない。ごく普通に観光をして、街を歩き回って、バスや地下鉄に乗り、名物だといわれるものを食べ、客引きをあしらう。夜は同じ宿の人とレストランでご飯を食べる。
それだけだ。まったくの普通の観光客。現地の人と仲良くなって家にあげてもらったことは一度もないし、日本以外の国で根を張って住み着いたこともない。上辺だけを見てすぐ去っていく旅行者だ。

それでも、旅行したことのある街の名前を聞くと、わたしの中にははっきりとその国でわたしが見てきたことが思い浮かぶ。プラハと聞くと、曇り空の下、暗い艶めかしい旧市街のみやげ物屋が思い出されるし、イスタンブールといえば、うすいもやのかかった灰色の街並みと、靴下屋のお姉さんの顔が思い浮かぶ。わたしの見てきた、ひどく一面的な街の断片は、わたしの中で今も生きている。

結局、わたしはそういう一面的な街の断片を手に入れたくて、旅行に行くのだ。たとえそれが上辺だけのものであっても。
これからも、色んな街の上辺をなぞり続けたいと思う。見知らぬ街、見知らぬ人々。それらを少しずつ見て周る。まだ行っていない街は、わたしの中で何の断片もない。何の断片もないものを追い求めるから、こんなに切ない気持ちになるのだろうか。


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