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 弟の結婚2

結婚式の当日。
私は、義理の妹となる人を、その時初めて見た。
シンプルなウェディングドレスに身を包んだその人は、気の毒なくらい痩せていて、目や鼻や口などのパーツが目立ってしまっている程だった。
そして、母親が驚いたのも無理はない程、将来を悲観して飛び降り自殺した叔母の寂しげな顔とよく似ていた。
「・・・」
いったい彼女に何の不幸があったのか(弟のせいなのか)と思わせ絶句したが、すぐ気持ちを切り替えて、にこやかにご挨拶させていただくと、彼女は大慌てで立ち上がって、挙式前に一度も会わなかったことを何度も詫びてきた。
「いえいえ、私もなかなか都合を合わせることができなくて申し訳ありませんでした(微笑)」
こういった面倒な社交がこれから一生続くのかと思うと、正直気が滅入る。

彼女の実姉を見ると、細めではあるが彼女よりは明らかにふっくらしていて、人好きのするキラキラした目をしたおしゃべりな感じの人で、妹とは仲が悪いというのも頷ける気がした。
その旦那さんは、人の良さそうなぼーとしたクマみたいな人で、賑やかで元気いっぱいな姉さん女房の尻に敷かれているのが容易に想像できた。
また、舌癌で手術したという末っ子の弟さんは、見るからに末っ子の甘やかな感じを醸し出した理系君で、物凄くゴッツい一眼レフを抱えてニコニコしていた。
ご両親もとても品の良い感じの方々で、弟が良い環境に育った女性をゲットしたのは明らかなようだった。
真っ当な性格の両親に愛され、何一つ不自由ない環境で大きくなった人たちの空気。
多分、私と弟は、そういったものを敏感に察知する。
ぐっとこみ上げてきそうな気がした。
・・・が、それはすぐに収まってしまった。

式が始まった。
双方とも家族以外呼ばない約束だということで、出席したがっていた親族の参加すらもも断った我が家と違って、彼女は家族以外を列席させていた。
どうしてもと懇願されてブーケ作りの先生だけ呼ぶということだったが、どうやら先生は年も近い上10人近くいるらしかった。
また、ブーケは彼女の手作りで両家の両親にプレゼントされると聞いていたが、弟の話では結局作ることができず"先生"が作って送ってきたとのことだった。
こんな見栄っ張りで嘘つきな人と姻族になりたくないなぁと心の中で嘆息しながら、それでも弟がこの結婚に対して、真剣みもしくは結婚というもの自体に対して敬虔な思いに打たれている部分があるのならと期待して、その姿をじっと見つめる。
宣誓。
弟は、高く通った声で流麗に宣誓文を読み上げた。
そのあまりに演技した嘘くさい声に驚いてしまって、後でそのことについて尋ねると、
「何度か練習させられたんだ〜、教会で」
と、平然と言ってのけた。
呆れたが、彼のこの結婚に対するスタンスというものがよく解ったので、ほっとしたのも事実だった。

そして、挙式は恙無く終了し、場所を帝国ホテルに移動して、家族のみが出席するタイプの披露宴が始まった。
司会進行は黒田清子さんの挙式の時に配膳係だったという人で、確かに配膳のスピードやサービスの仕方は万全であったが、彼女の同僚が贈ってくれたバルーンフラワーを割ってしまい、早々に縁起の悪い出だしにしてくれた。
ということを抜きにすれば、帝国ウェディング定番メニューが何もなかったので一番安いランクと思われるフレンチにもかかわらずびっくりするほど美味しく、会場の飾りつけなども白を基調にした気品のあるコーディネートで、上々だったように思う。
食事の途中、祝電の読み上げが行われたが、弟の勤務先でも彼女の存在は寝耳に水で仕事一筋と思われていたということが書かれてあり、弟の会社内での態度、彼女への態度が偲ばれた。私にも数年前、今いる赴任先でいい人を見つけたいと言っていたのを思い出した。
次にファーストバイトが行われ、だんだん場が和んできた。
と、唐突に彼女の姉が拾ってきた仔猫の話をしだした。
「あの目を見て、拾って帰らないなんてありえないわ」
と力説し、でも面倒は見たくない、猫を飼っているこちらの親に飼ってほしいと言った。
弟はその話については断ったと言っていたが、また辛抱強く「実家の猫は気性が荒い猫で仔猫など一緒は無理」ということをその場でもう一度穏やかに説明していた。
こんなゴリ押し姉とも姻戚関係かと思うと胃が痛い。

次に両人の幼い頃からの写真の公開が行われた。
・・・と言っても、本人だけの写真は皆無で私の写真に弟が写っているものしかなく、しまいには私の結婚式の写真まで公開されてしまい、極めて不愉快だった。
相手側の写真の公開は、幼い頃のことは自分ではわからないから説明できないということで姉がマイクを取った。しかし、後半、成人してからの海外旅行の写真が続く中も「この時はこんなに太っていました」と笑いながら解説を続け、その頃の写真のほうが傍目にはちょうど中肉中背で生き生きして見えたので、もしかして姉が太っていると妹を追い詰めた挙句あんなに激痩せしたのではないかと考えてしまい、こちらもあまり愉快ではないひと時となった。

そんな泣けるどころか気疲れするだけの披露宴も両親への花束と記念品贈呈で終了。
弟たちは、これから婚姻届を提出しに行くと言い、私たちは誰と和むでもなく早々に解散した。

どうか弟に平和な日々がありますように。
そして、私は今後ずっと無関係でいられますように。

2010年07月31日(土)
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