空虚。
しずく。



 葛藤。

階段の下に、死体があった。
血の海に沈む、あの人だった。
無意識に一歩を踏み出す。咄嗟に手摺を掴む。
喧騒が、一瞬途切れた。

背中が見える。情事の後だ。
眠っているのだろうか。あの人は動かない。
「どっちだ」
私はそんな事を思う。
ナイフを振りあげる。
ああ、まだ「死んでない」
これから、「殺すのか」

目をあける。線路に血が落ちている。
手を握り締める。唇を噛み締める。

「何もない。何も見ちゃいない」
言い聞かせて閉じた目は、すぐに赤く染まった。


どうすれば、見ずにすむ。
どこにも逃げ場がない。笑顔が、見たい。
一緒に、笑いたい。
なのに、手だけが動く。

怖い。

2005年11月26日(土)
初日 最新 INDEX MAIL HOME


My追加