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■ 飛行時間
眠れない夜、気持ちがなかなか静まらない時、私はいつも同じ本を開く。
もう何度も読んだはずの本だけれど、もう一度はじめから、時には途中から、ゆっくりと読み返す。
『旅をする木』。
何年も前の誕生日に友達が贈ってくれた本だ。 その本から、幾度となく新しい温もりを受け取っている。 それは何度読んでもいつも新しい温もりだ。
昨日の夜、またその本を開いた。
ずっと昔にはさんだ猫の形をした葉っぱが、からからに乾いている。
数日前にはさんだポインセチアは、まだ少し湿っているかもしれない。
どこで、どう間違えたのか、牛丼50杯が当たるかもしれない引き換え券もまぎれこんでいる。
ページの残りがあとわずかというところで、一行の文章が胸に響く。
「…何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時を、大切にしたい…」
何も生み出すことのない時間。
その時間のなかで、どんな人が、どんな風景が、私を通り過ぎていっただろう。どんな言葉が生まれ、去っていっただろう。
掴む事ができないものならば、せめて紡ぐ事はできないだろうか?
小さな入り口だけがついた、挨拶もないウェブページ。ここで、ほんのつかの間、遠くなっていく時をもう一度旅する事はできないだろうか?
降っていたはずの雪が、いつの間にかやみ、窓の向こうで風車が回っている。今日は風が強いみたいだ。
*旅をする木:文藝春秋、星野道夫著
2004年02月08日(日)
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