|
|
■■■
■■
■ あふれる思い。番外編。その5
…ああ…またまた長くあいてしまいました(汗)すいません〜。 こっちでヒカ碁の感想を書くのは夏までお預けなので、ミニミニSSをこちらでUPしていきます〜。
「あふれる思い。番外編。その5」
大事な1局の前に、緊張からか、朝早く目がさめることはあった。 しかし、今朝は違う。 眠りから引き戻される思考の中、浮かび上がるように思うのは。
(…進藤…)
ついさっきまで見ていた夢の中に、彼がいた気がする。だが、朝の光にかき消されるように記憶は消え、アキラの中に不思議な気持ちを残していた。 何故だろう、とは思うが、かき消えてしまった夢はどうにも思い出せない。 思い出そうとするのを諦め、壁にかかった時計を確認する。 (10時、だよな) 待ち合わせは駅前、改札口で10時に。アキラから持ち出した約束だ。 今、父と母は中国に行っていて、いない。一人の生活にだいぶ慣れてきていて、アキラはいつもどおり起き上がると布団を片付けながら、ふと思う。 (進藤は、もう起きたかな) ヒカルの事を考えると、無意識に笑みがのぼる顔に気がつかず、アキラは部屋を後にした。
「…早すぎたかな」 10時の約束に、アキラは20分ほど前に待ち合わせ場所に着いてしまった。朝ご飯を食べてしまうと、妙に空いた時間を持て余してしまい、アキラは早々に家を出た。 世間的には今日は平日で、行き交う人々の中に自分と同じくらいの年の人間はほとんどいない。 まだヒカルが来ていないのを念のためぐるりと見回して確認すると、アキラは改札が見渡せる場所に立った。そうして、携帯を取り出して時間を見る。まだ時間まで15分。 携帯をしまい、人ごみになんとはなしに視線をさまよわせると、今朝方見た夢の後に感じた気持ちがよみがえってきた。 (たしか…似ている気がする) 夢の中で、自分はヒカルを待っていた気がする。ただ1人、ヒカルを。 だけど、それ以上のことは思い出せなくて、なんとなくもやもやと形にならない記憶のようなものが夢の後半を占めているだけだ。 思い出せないことが、こんなにもひっかかるなんて。アキラはそんな自分に苦笑する。 夢なんて、覚えているほうが少ないのだ。きっと思い出せないということはたいした夢ではないに違いない。 小さく息をついて、再度周りを見渡したアキラの視界に、飛び込んできた世界。
「あ。塔矢!おはよう!」
キラキラと輝く笑顔全開で走り寄ってくるヒカルの姿だった。 世界がそこだけ色づいて見えた。アキラには。 「し…!」 まだ来ないと思っていたその人が、目の前にいる。ついさっきまで考えていたその人を目にして、心の準備が出来ていなかったアキラはフリーズした。…何で心の準備が必要なのかは、アキラ自身は考えもしないが。 「今日は絶対オレのほうが早いって思ったのになー。オマエ、何時に来たんだ?」 ニコニコと話し掛けるヒカルの笑顔がまぶしくて、アキラは答えられない。 「塔矢?おい?」 そんなアキラに、何を思ったのか、ヒカルが聞いてきた。 「…起きてるか?」 ご丁寧に、目の前で手のひらをひらひらと振って見せるヒカルに、アキラはようやく言語障害から復帰した。 「キ、キミが時間前に来るなんて、思ってなかったから」 ほんの少し、どもり気味なのにヒカルは気がつかない。気がついてくれなくてアキラ的にはOKなのだが。 「ひでえなあ、塔矢。オレ、なんだか今日は早く目がさめたんだ」 ヒカルの言葉に、アキラはふと胸が躍る。 今朝の自分が、そうだった。 習慣もあるとはいえ、こんなにもさわやかに朝早く目がさめるなんて、そうそう無い。それは、ヒカルも同じだったのだろうか。 そんな思いにわずかに頬を染めるアキラを、ヒカルはこれまた無邪気な笑顔で覗き込む。 「ま、いいか。行こうぜ、塔矢」 「え?」 「え?じゃないよ、塔矢が案内してくれるんだろ?こっから近いのか?」 「え、ああ、近いよ」 じゃあ…と先導するようにアキラはヒカルの前を歩き始める。 頬が熱くなったのは、きっと今日が晴れだからに違いない。空を見上げてアキラはそういうことにする。 今日の空は雲も殆ど無く、澄み渡っているようにアキラには見えた。ヒカルといる、それだけでこんなにも見える景色が違うものだろうか。 「待てよ、塔矢」 思考に沈みかけてしまったアキラを、ヒカルの声が引き戻した。 「オマエ、歩くの速いよ〜」 「あ、ごめん、つい」 気がせいているわけでもないのに、はやる心が出てしまったようだ。 「今日は時間あるんだろ?ゆっくり行こうぜ」 「あ、うん、そうだね」
(…今日は、何時までいいんだろうか?)
そう聞きかけて、言葉を飲み込んだ。
会ったばかりで、まだ当初の目的すら果たしていないというのに、いきなり帰る時間を聞くなんて、気に触って帰られたくはない。 今日だけは、時間を気にしないでいたいと思う。こうして、もっと一緒に歩いていたかった。 それに、この後、碁会所で打つという約束なのだから。
…心の何処かで、ざわめきだした思いからアキラは目をそむけた。
「あ、こっちだよ、進藤」 自分が手帳を買った店へと足を向けながら、アキラは別の言葉を口にした。 「そういえば、進藤は買い物ってどこに行くんだ?」 「あ、オレ?オレはまあ気にいってる服屋とかCD屋とかをまわるかな。本屋とか。塔矢は?」 「ボクはこの辺とか、棋院の近くが多いかな」 「ふーん」 会話が途切れかけてしまい、アキラは慌てて話題を探す。 ヒカルと碁以外の話をする時がくるなんて、思いもしなかったのだ、今まで。 何を話せばいいのか、あせってしまうほど何も思い浮かばない。 (えっと…) 内心ではあせっているものの、アキラはそれを表情には出さない。ヒカルもまた、この途切れかけた会話をどう思っているのか分からない。 その表情はなんとなく嬉しそうに見えたから。 沈黙が一瞬支配したが、途切れた会話は短く済んだ。 目的の店についたからだ。 「あ、ここだよ」 アキラの指差す先には、いかにも高級そうなたたずまいの店。そこらの文房具屋を想像していたヒカルには、ちょっと敷居が高く感じる店だった。 「さっすが塔矢だな…」 「え?何が?」 ヒカルの呟きなどアキラの耳には届いていない。中に入りかけながら、アキラはヒカルに笑いかけた。 「ホラ、入ろう。いいのを探してあげる」 「…うん」 それでも、多少なりとも自分の収入のあるヒカル達である。塔矢の薦めるものならそう高いものでもないだろう、と、ヒカルはアキラの後を追って店内に入った。
店内に入って数十分後。 …まさか、アキラがそんなことを言い出すなんて、誰が想像できただろうか? 少なくともヒカルにとっては思いもしなかったことだし、当のアキラにとっても、最初は考えてもいなかったことなのだから、仕方ないのかもしれないが。
「…これ、プレゼントしてあげる」
★★★★★★★
…続く…。
そうですね、後3回くらいは続くと思います。今度こそ、短期で終わらせたいと思います。 で、きっとまたこの辺を書き直していることでしょう…(爆)。 予定としては、この後ある人が出てきます。ええ、きっとそこのアナタの予想通りの方が。
2003年05月07日(水)
|
|
|