文ツヅリ
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2004年06月09日(水)
 【沖土】 “good-morning Hiji”
「夜這いとは土方さんもなかなかやるようになりやしたねェ」
「なッ……寝ぼけんな! もう朝だ!! とっとと起きやがれ!」
「照れなくてもいいんですぜ」
 そう言って沖田はアイマスクを額にずらして、口元だけでにやりと笑う。


 屯所の寄宿舎。
 朝の弱い(というか起こしても二度寝する)沖田が定刻になってもやってこないので、起こしてくるようにと土方は近藤から言い付かったのだった。
 自分で一喝してやればいいのに、近藤さんは沖田には甘ェんだから、などとぶつくさ言いながら部屋に向かい。
 乱暴に布団を剥ごうとしたところ、その手を逆に強く引っ張られ。
 自然、沖田の上に自分が覆い被さる格好になった。
 で、今の台詞。


「いいから起きやがれ! あと手ェ離せ!」
 片手で自分の体重を支えながら掴まれた手を振り解こうとするが、どこにそんな力を隠しているのか、沖田の手はがっちりと手首にはまって解けない。
 それでも、みっともなくその手を精一杯ぶんぶんと振り回していると、沖田が欠伸交じりの溜息をつきながら言う。

「あんまり暴れると」

  ヒュッ

 耳元で風を切る音がなり、じわじわと耳が熱くなる。

「うっかり斬っちまいやすぜ」
 沖田はどこから出したのか、おそらく仕込み刀のようなものを、顔の側面ギリギリの空中に突き立てた。
 相変わらずの寝ぼけ眼でありながら、狙いは正確そのものだ。
 瞬時に土方の身体が固まる。
 するとまた口元だけで微笑み、片手には刀を握ったままで両腕をそれぞれ頭と首に絡めてきた。
 沖田に強く引き寄せられるので、せっかく解放された手を布団の上についてしまう。
 これじゃますます自分が沖田を襲っているみたいだ。

「沖田ァ、いい加減にし……」

「血ィ出てやすぜ」

 耳元で囁かれ、土方は言葉に詰まる。その隙に沖田は自分で傷をつけた耳を舐める。
 それを何度も繰り返してから、耳たぶを柔く噛んだ。
 ピリピリした痛みの後に突然襲う甘いくすぐったい刺激に、過剰に反応してしまう。

「おいッ、そこは怪我してねーだろーが!」
 戸惑って怒鳴ったが、沖田はそんなことお構いなしに舌でなぶり続ける。
 そして耳の後ろを舐めあげた。

「……ッ」

 土方がぴくりと反応するのを確認して、優しく囁く。

「やっぱりここ、弱いんですかィ?」
 心なしか声が楽しそうだ。

「バッ……、んなわけあるかァ!」
「はいはい」
「あやすな!!」
「じゃあここも、」
 言いながら唇をゆっくり這わせて首筋にまで降りてくる。
 沖田の唇の動きがダイレクトに伝わってきて、無意識に顎を持ち上げてしまう。
 奥歯を噛み締めて、それ以上反応を悟られないようにした。
 そう沖田を喜ばせてばかりいられない。
 すると突然、きゅっと首に吸いついてくる。
 ちゅう、と音を立てて強く吸い上げながら、片手で首周りの布を手早く剥ぐ。
 そして露わになった首の根本まで唇をゆっくり滑らす。
 手は休めずに、ボタンを器用に外していく。
「ちょっ、沖田……ッ」
 力の入っていた頚部には、筋から鎖骨までくっきり浮かび上がる。
 その鎖骨に軽く歯を立てて、隙間から舌を這わせた。
 そして衣服の隙間には手を忍ばせた。

「やめろって!」
 土方はなんとかして沖田を止めようと、寝巻きの襟元を引っ張った。
 それでも沖田は動きを止めなかったが、首に絡めた腕が更に力を増したので、土方は片手で体重を支えきれなくなる。
 途端にバランスを崩し、顔面を地面に打ちつけた。
 おかげでなんとか動きを止めることは出来たのだが。
「……ってぇ」
「土方さん、顔の上に乗っかるのはやめてくだせェ」
「ならその手を離せェェ!」
 もう一度両手に力を入れて首を持ち上げようとしたそのとき。


「副長……」


 背後から聞きなれた密偵の声。
「でェ! 山崎!?」
 首を沖田に固定されているので回せなかったが、見なくてもわかる。
「土方さん、タイムリミットでさァ」
 身体の下からくぐもった声が余計な事を言ってくる。
「お前なに勘違いされそうなこと言ってんだよ! おい山崎、誤解すんなよ!?」
「わかってます」
「ハ、ならいい……」
「近藤さんには絶対言いませんから!」
「違アァァァう!!!!」

 そしてどたどたと走る音が遠ざかっていく。


「あーあ、行っちまいやしたね」
「おまッ、どうすんだよ!」
「なにをですかィ」
「誤解されちまったじゃねーか! なんだこのベタな展開!」
「まあまあ。 バレてる方が何かとやりやすいですぜ」
「そんな公認性いらねェェ!」
 そう叫んで、今度こそ力ずくで沖田を引っぺがした。

 すると、意外とあっさり離れる。
 息を荒立てて立ち上がると、足元で沖田が寝そべったままぽそりと呟いた。
「まァ、みんなに認められても仕方ありやせんねェ」
「? そうだよまったく」
 土方は手間取りながらもきっちり衣服を整えると、さっさと出口に向かう。
 そしてため息混じりに、お前も早く来いよ、と付け加えて出ていった。



 沖田は乱れた布団の上に取り残された。
 手の力を抜くと、刀がするりと転がり落ちる。

 それから大きく息をついて、もう一度呟いた。





「みんなに認められても……」


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