文ツヅリ | ||
HOME | ||
<< | ↑ | >> |
2004年06月26日(土) 【新銀】 初任給 |
「買い物行ってきました」 「おぅ、お疲れ〜」 でかい紙袋を抱えてよたよたと家に上がった僕にそっけない一言。 相手はゴロゴロしながらテレビを見てるに違いないのに。 最初は無償奉仕してるようで嫌だったけど、最近はこのスタイルに慣れてきてしまってる。 そんな自分がちょっと、不安。 「銀さん、たまには掃除くらいしてくださいよ」 「お、明日は晴れだとよ。 洗濯よろしく」 「ちょっ、まーた雑用押しつけて! あんた最近なんもしてないでしょうが!!」 「依頼待ちなんですぅ〜。 雑用は君の仕事だろう? 新八くんよォ」 「なんで当たり前の様に言うんだよ! 僕はお手伝いさんじゃないぞッ」 「おいおい、中年の女房気取りか新八」 「誰がだちくしょう!! とにかく、この雑用の分もきっちり給料払ってもらいますからね!」 そうきっぱり言い放って、僕は背を向けた。 一体何度目の台詞だか。 言うだけ無駄だけど、まァ脅しくらいには使えるかもしれないので言っておくことにしてる。 ……そうしたところで掃除や洗濯をするとも思えないけど。 「はぁぁ……」 深くうなだれてため息をつくと、 「……ったく、しょーがねえなァおい」 予想に反する言葉に思わず振りかえる。 見るとソファに隠れて、銀さんの、寝癖だか天パだかわからない髪の毛をピンピン立てた頭が動いてるのが見えた。 どうやら引き出しを漁っているようだ。 「え、銀さんひょっとして――」 「おお、初任給になるかな……っと」 ゆったりと立ち上がって近づいてくる。 手にはなんと、そこそこ厚みのある封筒を持ちながら! 「俺のへそくりだ。 受け取ってくれ」 「銀さん……」 何故だか感動に目を潤ませつつ、その封筒を受け取った。 ……いや、よく考えたら貰って当然のものなんだけど。 「あ、開けていい?」 「ああ。 もうそれはお前のもんだろうが」 洟をすすりながら問う僕に、微笑みながら銀さんが答えた。 ……いや、よく考えなくても中身わかってるけど。 そうっと封を開けると、優しく甘い匂いが僕を包んだ。 ああ、僕のイメージがやけにリアル。 (だって銀さんが、初めて……初めて僕に給料を払ってくれたんだもんな……!) 感極まって涙が一筋流れていった。 嗚呼なんと芳しきサラリー!! これさえあれば、もう姉上に「今月の給料はどうしたァァ!!!」なんつって顎にアッパーカット入れられることも、十字固め極められることもなくなるわけだ。 それで家計に少し余裕が出たら、銀さんにパフェくらい奢ってあげてもいいかもしれない。 数々の思いを巡らせながら、おそるおそる封筒に手を差し入れ――。 カサカサ ガサッ ――ん、この音 感触…… ―――――銀紙!!?!? 「ってこれチョコじゃねーかァァァァ!!!!!」 「あだッ!」 僕の全力投球(板?)のチョコが銀さんの額へ気持ちよくクリーンヒット。 しかし、 「なんだよいらねーのかぁ? じゃ食ってい? 食ってい?」 と、目をキラッキラさせながらそんなことを言ってくる。 今か。 お前の「いざという時」ってのは今なのか。 全身を震わせながら絶句している僕の目の前で、早速板チョコに貪りつく銀さん。 僕の初任給はあっさり雇い主の胃の中へ消えていく。 その雇い主は子供のように(ってか子供だ絶対)口の周りをべたべたにしながら、それはそれは幸せそうで……。 「銀さんなんか……」 「糖にまみれて死んじまえェェ!!!!!」 泣き叫びながらその場を駆け去った。 即座に返ってくる声から、銀さんのニヤけた表情が容易に浮かぶ。 「え、最高じゃねえ!? その死に方」 ……それでも。 この人から離れられないことくらい、わかってるんだけどね。 |
Design by shie*DeliEro thanks for Photo→Cinnamon |
|