日々雑感
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2006年05月20日(土)

昨日のこと。

出先からの帰り、ぼんやりしながらアパートの外階段をのぼってゆく途中、ふと視線を上げると、それこそ目と鼻の先に猫の顔。階段に寝そべっていた猫と、まともに目と目があってしまった。

このあたりはノラ猫が多いのだけれども、食べる物でも持っていない限りは、だいたい愛想もなく(または怖がって)どこかへ消えてしまう。それがこの猫、逃げもせずにこちらの様子をうかがい、そのうち戸の隙間から部屋の中へするりと入ってきた。

シッポが触れるか触れないかくらいまでは近寄るが、それ以上は決して接近しない。微妙な距離を保ちながら、部屋の中をうろうろと物色。猫が喜びそうな食べ物もないので、すぐに出ていくだろうと戸も窓も開けておいたが、なぜか自分からは外へ行く気配がない。仕方なく、庭先まで誘導してから戸を閉めた。

そして今晩。

外へ出ようと戸を開けたところ、すぐそこに昨日の猫が座ってこちらをじっと見つめている。不意打ちにびっくりしていると、一声鳴いて立ち上がり、部屋の中へと滑り込んできた。

昨日とは違い、足元にまとわりついては膝の上にものぼり、さらにはこちらの鼻に自分から鼻をすりつけてくる。鼻と鼻をくっつけるのが猫の挨拶らしいけれども、猫のほうからされたのは初めて。しかも積極的。そのうち喉までゴロゴロと鳴らし始めた。

我が家のことを気に入ってくれたのか、それとも、昨日は食べる物がもらえなかったから今晩こそはと意気込んでるのか、ほんとのところはわからないけれども、久々に間近で聞く猫の「ゴロゴロ」も身体の温かさも懐かしい。そういえば、以前、実家に迷い込んできて居着いた猫も、この猫と同じキジトラだった。

どこからかふらりと現れ、その素性は決してわからない。「迷い人」に会ったことはないが、実家には迷い猫も迷い鳥も迷い犬も、一度など海から迷い亀もやって来た。

そういうとき、迷って辿りつく彼らは福を運んできてくれるのだと、実家では大切にした。

猫は今度は肩の上に乗っかり、ゴロゴロを続けている。ずっとそばに居てほしいところだが、ひとり暮らしのアパートではそういうわけにもいかない。嫌がる猫を何とか外に連れ出して、申し訳ない思いで戸を閉めた。猫は、戸の向こう側で一生懸命鳴いている。

なかなか止まない鳴き声を聞きながらしんみりしていると、隣りの部屋の人が帰ってきた音がする。途端に鳴き声の調子が嬉しそうなものに変わり、どうやら隣りの部屋へと上げてもらった様子。

かまってくれる人なら誰でもよかったのねと切なくなりつつ、そのたくましさにちょっと安心する。猫でもひとり(一匹)きりでいると、ときには誰かの気配が恋しくなったり、窓から漏れてくるあの灯りの中に自分も入ってゆきたいと思ったりするのだろうか。

何に惹かれて、迷いこんでゆくのだろうか。


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