某日夜遅く。 彼女が私の携帯を鳴らした。
久しぶりの彼女は何故だか泣いているような そして途切れ途切れに消え入りそうな声で呼びかけてくる。
繋がっているのか 繋がっていないのか。 もう切れそうなのか 既に切れているのか。
思い切り大きな声で呼びかけてみたら、 迷子の子供のような返事が返ってきた。
消えてしまいそうな声の向こう側からは、 絶え間なく喧騒がこぼれてくる。
あの街なのだ。 あそこにいるのだ。 あの駅の近くの、きっとあの場所に立ち尽くしているに違い無いのだ。
彼女と話しているのか、喧騒と話しているのか、 ぽつりぽつりと、話すことがあるワケではないのだけれど 幾つかの言葉をやりとりした。 が、彼女と私との間に必要なのは、もはや言葉ではなくなっている。
それは幸なのか。 果たして不幸ではないのか。
いつかの昔。 前が見えないほど真っ白に降りしきる桜吹雪の中、 揺れるように歩いたのを思い出した。
あの時の、あれは何故だったのか。
記憶しているということは幸なのか。 忘れてしまった方が幸なのではないのか。
花見をしよう。 春がきたら花見をしよう。 桜の花が散りはじめたら。 桜吹雪に塗れながら、あの橋を渡って桜を見に行こう。
〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜
|