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■ ハワイの匂い
寝室のベットの足元にある、スピーカーの上には、いつのまにかCDが タワーのように積み重なっていた。ジェンガという積み木遊びのように、 中ほどに重なった一枚を、注意深く、しかし、無造作に選んで引っこ抜く。 暗がりで再生ボタンを押すと、キース・ジャレットのピアノが流れてきた。
最近、夜になるとうまく眠れない。 どんどん夜は更けてゆくのに、私の頭は覚醒し続ける。
眠ろうと努力しても眠れないとき、きっぱり諦めることにしている。 本を読むこともあるし、お酒を舐めることもあるけれど、最近の私は、 テレビをつけて深夜放送を流している。暗い寝室に、テレビの猥雑な 色が反射するのは、見ていておもしろい。音は消して、かわりにCDを流す。
さっき、二度目のお風呂に入った。 一度目に入ったときに、湯船の栓を抜いてしまったので、もう一度 バスタブにお湯をためた。半透明のプラスティックの容器に入った 乳白色の粉を入れる。恋人にすすめられて買った、無印良品のミルクバス。
お湯に溶かすと、ココナッツの甘い匂いがする。 曰く、朝風呂にこれを入れて、浴室の窓の外に青空が見えたりすると、 まるでハワイの朝のような気分、なのだそうだ。でも残念なことに、 うちの浴室に窓はないし、あったとしても真夜中に青空は望めない。
ちゃぷん、と乳白色のお湯からのぞいた膝小僧を眺める。 ハワイの夜もこんな甘い匂いがしていた。夕方のスコールが過ぎ去って 濡れたアスファルトを散歩していると、夜風にのってやはり甘い匂いがした。 私は眼を閉じて、ハワイの夜を思い出す。オレンジ色の電飾や、遠くから聞こ える潮騒の音、ワンピースから剥き出しになったサンダル履きの足なんかを。
不意に、眠りが訪れる。私は慌ててハワイの匂いがする浴室を出て、 よい香りをさせたままベットにもぐりこんだ。そんな二月の夜のこと。
2004年02月02日(月)
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