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■ 春髪
実に6ヶ月、伸ばし放題だった私の髪は、数ヶ月前から既に壊滅状態だった。 肩甲骨の下まで伸びた髪は、毛先がバサバサで、全体にうねうね。 くせっ毛というより、くせのある生え方をしているので、伸びると ボディパーマをかけたように、ワイルドかつダイナミックになっていた。
「うわーっ。どうします?」 挨拶もそこそこに私の髪をくしゃくしゃ触りながら、アサコさんが云う。 うわーっ、というのは、おそらく傷みきった髪に対する哀れみの意。 どうします?というのは、おそらく「バッサリいっちゃいます?」という 投げかけの疑問文。もしくは、「切らなきゃダメですね」という断言。
「いいです。もう、どうにかしてください」 鏡に映る私が、力弱く訴える。アサコさんは鏡の中で視線を合わせ、 ふっ、という感じにわらって「じゃ、いっちゃいますよ」と応えてくれた。
なんと、トータルで四時間かかった。もうこれは、手術だ。 消毒代わりにざっと洗髪し、外科手術を施すようにジャキジャキと傷んだ 部分を摘出し、輸血代わりに細かいハイライトをたくさん入れた。そして、 縫合するみたいなトリートメント、最後に包帯を巻くように丁寧なブロウ。
結果、私の髪は10センチ短くなり、10年ぶりに前髪ができた。 毛量は半分以下に減り、頭を振ると長めに作った前髪がさらさらと 降りてくる。思わず「うわーっ」と声が出る。 もちろん、感嘆文の、うわーっ。
大手術をし終えたアサコさんは、ヘアワックスを全体にすり込みながら 満足そうに「春ですもんね」と言う。へへへ、無事、春髪、できました。
2004年03月24日(水)
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