それは、今から10年以上も前のお話。
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友人と連れ立って、初めてのヨーロッパ旅行。 バックパックを背負う体力は無かったので、 小さいスーツケースを引きずりながら、 中途半端な貧乏旅行をした。 最初の目的地であったパリでいきなり食中毒にかかり、 かの有名なベルサイユ宮殿の敷地内で嘔吐した挙句、 三日間寝込んで革命記念日を迎えた。 何で製造日が二日前の牛乳にあたるんだ (しかもその日の朝に購入)、 何が花の都じゃ呪われろなどという罵りも考え付かない程に弱っていた。
友人に付き添われ、 ふらつきながら入ったカフェ。 何の変哲も無い店で、 年寄りの男性が一人で切り盛りしていた。 まだ固形物を摂る気にならなかった私が頼んだのはトマトジュース。 おじさんは一つ頷き、奥へひっこんだ。
そしてテーブルに持ってきたのは、 赤い液体がとろっと入ったグラスと、 ジョーカーのイラスト付きのプラスチックケースだった。 「これは何」と聞くと、「塩」との答え。 「入れろ」という仕草をするので、 入れ物をちびっと振って、かきまぜてから飲んでみた。
…おいしい!何だこれおいしい! 三日ぶりの飲食だったせいかもしれないが、 にしてもめちゃくちゃおいしい。 思わずケースの表示を見ると、 「セロリ入りの塩」と書いてある様子。 おじさんは満足げにまた一つ頷いて、 また奥へひっこんでいった。
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以上が「セロリソルト」との出会い。 その後、色々な人に聞いてみたが、 再会を果たせないまま、世紀を越えてしまった。
この度、同僚のIさんがパリへ行くというので ダメもとで頼んでみたところ、 滅法オサレなガラス瓶に入ったものを買ってきてくれた。 そ、そんなに高級食材だったのかセロリソルト。 そういえばある友人が 「そんなの年寄りしか使ってるの見たこと無い」 と言っていたが、 一度廃れたものがオサレに復活したのだろうか。
あのおじさんは、まだ元気でトマトジュースを出しているだろうか。 あの店に行ったら出てくるのかなぁ、ジョーカー印。
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