2002年02月13日(水) |
『読書からはじまる』長田弘(NHK出版) |
長田弘さんの語り口調は朴訥です。ところどころ言いよどみ、流れが止まるようにも感じるような。先日、10年ぶりに、その語り口調をテレビで見ながら聴いていて、「ああ、この人は、この語りよう、このテンポを”場慣れ”して変えることもなくこの10年を過ごしてきたのだなぁ」と思いました。この間、講演や対談といった場に臨む機会はそれ以前に比べ何倍にもなったであろうのに、です。 長田さんの文章もまた、平易な言葉で、かんで含めるように綴られます。「筆にまかせて、つい…」というようなことの決してないその文章の奥行きに立ち止まって動けなくなることがあります。そこで選ばれている言葉に長田さんがたどりつくまでの蓄積を思い嘆息したり、その表現の適切であり豊かであることを味わったりして。 昨年6月出版された『読書からはじまる』でもそういった箇所がたくさんありました。特になかほどの絵本を読むことについての省察には付箋がいっぱい。NHKで放映された「絵本を読もう」でも一貫して言われたことは、「まず、大人たちよ、絵本を読もう」です。 長田さんは詩人である、と共に、希有な読書人であることはこれまでの数々の著書からも推し量ることができます。本と共に歩んできた日々を語り、読むという行為の意味を長い時間をかけて常に読み続けながら問いただし続けたこの人が今、「絵本を」と言います。大人たちが、生きていく上で大切なことを子どもたちに手渡そうとする時、それを絵本でしてきた。そこには、大人が自分で渡したいとは思ってもなくしてしまった大切なものがある。それゆえ大人にこそ今絵本を手にとって欲しい、と言うのです。 長田さんが手持ちの絵本の中から選び翻訳をてがけている『詩人が贈る絵本シリーズ』第2期の『人生の最初の思い出』や『私、ジョージア』『いちばん美しいクモの巣』『子どもたちに自由を!』(いずれもみすず書房)を読むと、長田さんが絵本に託したこうした思いがひしひしと伝わってきます。
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