日々逍遙―この1冊、この1本、この1枚―
1冊の本、絵本、1本の映画、舞台、(ワインやお酒)、1枚の絵、CD。
散歩の途中に出会ったあれこれを…。

2002年04月03日(水) シッピング・ニュース(グランド4にて)

ラッセ・ハルストレム監督の作品はこれまで「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」「やかまし村の子どもたち」「やかまし村の春夏秋冬」「ギルバート・グレイプ」「サイダー・ハウス・ルール」「ショコラ」と観てきてどの作品にも愛着があります。
鈴木宏枝さんのサイトでHiroさんとラッセ・ハルストレム大好き、と話がはずんで
「ラッセ・ハルストレム普及委員会」を設立。以来下働きを務めています。

それで最新作「シッピング・ニュース」です。
相当期待してでかけました。「失意の男が北国で人の暖かさにふれ自分自身をとりもどしていく」という紹介にも期待はふくらみました。
ところがケヴィン・スペーシー演じる無気力で何をやっても長続きしない駄目男クオイルが酒場で知り合った女との間に子を設けるあたりからかなり性急な展開となり、女が男に溺れ、娘を売り飛ばした上、男と海に転落。追い打ちをかけるような父親の死、いわくありげなおばの出現、おばに導かれてのニューファンドランド島への移住へと話はすすんでいきます。
厳格な父親に見放された心の傷。でも無気力に暮らす日々に内省する様子もないクオイルが単に運命に翻弄されているようにしか見えないこの導入部分の性急さから
移住先のニューファンドランド島で記者としてそれなりのアプローチと気骨を見せる中盤へとつないでいくのにはかなり無理があるように思えたのです。
クオイル一族のかつておかした罪、おばがクオイルの父である兄との間に持つ秘密、やがてクオイルと結ばれることになるであろうウェイヴィ・プラウズ(ジュリアン・ムーア)の負う暗い影。酷寒のニューファンドランド島の荒涼とした自然にそぐわしい重いエピソードが後半たたみかけるように語られます。
ジュディ・リンチ(「恋におちたシェイクスピア」のエリザベス女王も、「ショコラ」のアルマンドもよかった!そしてこの作品でも彼女の演技は卓越していた。)演じるおばのミステリアスな行動の謎がここで一気に解けます。
ただ一族の血、犯した罪等々がこの登場人物たちをそれをものりこえての救済へ導くためのエピソードとして”用意”されているように感じはじめてしまった私の感じようは浅薄なのでしょうか。
おばはともかくクオイルが前半に語られた半生の中で、自分のルーツを気にしたり、父親の過剰な厳格さのよりどころを推し量ろうとした気配はまったくないので
その後、自らの血にうなされる場面にリアリティが感じられなかったのです。


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みねこ

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