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■ 永久不変(お題:02)
※「URAKATA屋」 ↑タイトルクリックで、専用の部屋へ飛べます(別窓)
永久不変
「楊、お前に仕事だ」 まるで、土産だ、と言って渡すようなノリ―本人にしてみれば、同じ感覚なのかもしれない―で渡されたのは、一人の男のプロフィール。 楊は、それを静に受け取り、目を通す。 「―――っ!」 小さく漏れた息に、渡された紙を持つ指先が震えた。 そして、睨み付けるように渡した男を見据える。男の口には小さな笑みすら浮かんでいて、確信犯め、と憤りを露にする。 「なぜ、この男は殺されるのですか?」 「まぁ、依頼人によれば些か優秀すぎる探偵らしくてな、」 邪魔なんだそうだ、と感情の篭らない声で続けられる。 「お前が嫌なら、鈴理に殺らせる」 「……貴方は、」 どこまで知っているのか、との問い掛けを途中で切る。 言って、何を?と返されるのを避けるためだ。 「期日は三日、殺ってくれるな?」 「・・・分かりました」 「そうか、ならもう下がって良い」 失礼します、と小さく言って部屋の扉を閉める。暫くの間、その扉を……中に居る人間を睨み続けた。 従うしかない自分の無力さに、ギリ、と強く唇を噛む。 口に広がる鉄の臭いに、唇が切れたな、と他人事のように考える。 手に握られた紙を、グシャリと握り潰した。
楊が、殺しを始めて六年が経った頃、二十一歳の時だった。
「ご苦労、今回も見事な仕事だった」 「……」 仕事を終わらせ、結果報告の場で、楊は男の労いの言葉にも何も返さない。 男を、無機質な瞳で見つめ続けた。仄かに、侮蔑の色をちらつかせ。 ただ、退室が命じられるのを待っていた。 「楊、お前はまだ分かっていないのか?お前の存在意義は殺すことにしかない」 「ならば、人殺しをしないオレは存在価値が無いと?」 「当たり前だ、何のために育てたと思っているんだ」 もう、下がって良いと、待ち侘びた言葉が発せられた。 楊は、一秒たりともこの空間に存在したくないとでも言うように、足早に部屋を後にした。
「間違ってる……」 「え、どうしたの、楊?」 気が付けば、目の前には鈴理の顔。 周囲を見渡せば、己が自室のベッドの上に居ることを理解する。どうやら転寝していたらしい。 嫌な夢を見た、と心の中で悪態を吐き、そのままの体勢で、心配そうな鈴理の顔に手を伸ばす。触れた頬の温もりに、愛しさが溢れ出す。 「何が、間違ってるの?」 「いや、夢の話」 「ふーん」 ま、良いや。と離れて行く鈴理に、僅かな寂しさを覚える。 ずっと前から決まってる。己の存在意義は義妹である鈴理を幸せにすること。 つまり、彼女を苦しめる男を殺すこと。 だから、オレの存在意義は貴方を殺すこと。 それをいつかあの男に言うことが出来るだろうか? 言えたとしても男は冷笑を浮かべ、「出来るなら殺ってみろ」と言い放つだろう。
オレの存在意義は貴方を殺すこと それは永遠に変わることの無い、一つの決意。永久不変の存在意義。
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「URAKATA屋」シリーズ 02.僕の存在意義は貴方を殺すこと を使用。楊の過去と決意。 今回は番外編を付けませんでした。本編の一部みたいなものなので。 結構重要な話だったりもします(汗) その内、詳しいことがきちんとした話で書かれるでしょう。 色々なことが絡んで来るんで・・・察した人も居るでしょうが。
お題4つ目、だんだん無理が出てくる・・・。
2004年02月19日(木)
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