星降る鍵を探して
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2003年09月14日(日) |
星降る鍵を探して4-3-6 |
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「な……何でだよ……」 ぜいぜい、ひゅうひゅう、とうるさい自分の呼吸音を持て余しながら、卓は思わずうめいた。独り言を呟くだけで咳込みそうになる。でも咳込んだらもう走れなくなる。自分の体が思い通りに動かないことにぞっとしながら、それでも何とかよろめくように足を前に踏み出す。少しでも前に進まなければ。マイキに先に行ってくれ、と先ほどから何度も言っているのに、彼女は頑なに卓のそばを離れようとはせず、新たにどこからか湧いて出た追っ手との距離は狭まるばかりだった。 何とか前に進まないと、マイキまでが。 一体どうして彼らには、自分の居場所が分かるのだろう? 先ほどの追っ手は倒した。連絡を取る暇もなかったはずだ。それなのに一体どうしてだろう? どうして彼らは全く迷う素振りもないのだ? 今までいくつもの分かれ道を通り過ぎてきた。その度ごとに、彼らは過たず卓とマイキの取った道を選んで追いかけてくるのである。 かすむ目で辺りを見回しても、監視カメラのようなものは見あたらない。そもそも監視カメラがあっても、この暗さでは卓とマイキの姿をカメラで捉えるのは難しいだろう。それでは何か、赤外線のようなものだろうか? 建物の中の至る所にセンサーが取り付けられていて、それが卓とマイキの居場所を逐一彼らに知らせているのだろうか? しかしこの建物の中をうろうろ動き回っているのは何も卓とマイキだけとは限るまい。 それに彼らは先ほどから一度も、一度たりとも、「何者だ」という言葉を発していないのだ。彼らは卓たちを普通の研究者かもしれないとか、自分たちの仲間かもしれないとか、一瞬たりとも疑っていないようだ。 まるでここにいるのが『敵』以外の何者でもない、と確信しているような―― どうしてそんなことがわかるんだろう? ボイラー室のところで、足音を殺して近づいてきていたことを思い出す。あれは探しているような感じじゃなかった。彼らには、卓とマイキがあそこにいる、とわかっていたのだ。あの辺にいるかもしれない、なんてあやふやなわかり方じゃなくて。 あそこにいる、と。 「何でだよ……」 沸騰しているような脳で卓は必死に考えた。どうして奴らは、そんなにはっきりと、卓とマイキの居場所を知ることが出来るのだろう。 目印がついてるわけでもないだろうに。
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克は目を瞬いた。 「な」 と口を開く一瞬の間に、体が勝手に反応していた。玉乃の左手はまだ克の右腕を掴んでいる。その腕をぐっとひくと玉乃の体がバランスを崩し、彼女が体勢を立て直す前に克の左手が玉乃の右手を掴んでねじり上げていた。同時に左手を握る玉乃の手を外し、こちらも手首を掴み返す。とっさの動きに銃が玉乃の右手から離れて床に落ちる。それを目の隅で追いながら克は既に後悔していた。何てこった。彼女はまだ銃の安全装置を外していなかったのである。 後悔してももはや遅い。勢いのついた体は勝手に動いて、玉乃の両腕を壁に押しつけていた。ダン! と痛そうな音が後から聞こえる。がつん、と銃が床に落ちて転がる。舞い上がっていた玉乃の長い髪がほつれて白い頬に落ちるのをみながら、克はため息をついた。 ――やっちまった。 「……すごいわ」 なにやら嬉しそうな玉乃の声が聞こえる。克に壁に押さえつけられた格好で、彼女はほつれた髪を頬にまとわりつかせたまま、こちらを見上げて微笑んだ。
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不思議ちゃん?(シュール) ああ……自分で何を言ってるんだか分かりません…… どうやら熱があるらしいんですよ、実は。咳止め薬の副作用だかなんなんだか。熱があるときに小説を書くとこうなります、といういい例です。玉乃ちんが何考えてんだか(以下略)。
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