星降る鍵を探して
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2003年10月03日(金) 星降る鍵を探して4-4-11

 その匂いに気を取られた卓に、彼女は畳みかけるように訊ねた。
「ね、大学生?」
「え……と」
 卓は何と答えようかと一瞬迷った。卓は大学には通っていなかった。せっかく合格したのに大変残念だが、卓は既に死人と言うことになっている。学籍は恐らく削除されていることだろうと思うと通っても仕方がないような気がしたし、そもそも怪我を治すのに専念していたこのひと月、正直に言えば学校のことなどほとんど忘れていた。
 しかし、だ。では今は何をしているのかと訊ねられると、非常に答えにくいのである。卓の今の状態は実質的には居候である。が、自立したいという気持ちはあるのだ。怪我が治るまでと、今の境遇に甘えていただけで、ずっと今の状態を続けたいなんてみじんも思っていないのだから、初対面の人間にはっきりと『自分は居候である』と宣言するのはとても不本意なことだった。
「え……ええまあ……」
 曖昧に肯定してしまってから卓は良心の呵責に悩まされた。しかし、彼女が続けていった言葉に、卓の後悔はすぐに吹き飛んでしまった。
 彼女はふうん、と頷いて、そしてにっこりと笑ったのである。
「てことは、もしかして、須藤流歌ちゃんて、知らない?」
「!」
 反射的に立ち上がりかけた。当然果たせずに体がずきりと痛んだ。盛大に顔をしかめてうめき声を上げた卓を、その女の人は不思議そうに覗き込んできた。
「大丈夫? 怪我、してるの?」
「知ってるんですか……!?」
 覗き込んできた彼女の肩をつかめるならば掴みたいと思いながら、卓は精一杯首を伸ばして訊ねた。彼女が目を丸くする。
「何を? あなたの怪我を?」
「違う!」どうも調子が狂う。「須藤流歌さんて……知ってるんですか、会ったんですか!?」
 ああ、体が動かないと言うのはとてももどかしい。
 彼女はしばらくまじまじと卓を見ていたが、ややして――
「ぷっ」
 吹き出した。顔を歪めて、おかしくてたまらないと言うように、お腹に手を当てて笑い出したのである。
「く……ふ……あはははははは!」
 顔をくしゃくしゃにして笑うと、大人びた顔立ちがとても子供っぽく見える。卓は何故笑われるのだろうかと一瞬ぽかんとして、そして、ムッとした。何がおかしいのだ。人がこんなに苦労しているというのに。
「あはははは、お、おかしいっ」
「何がですか」
 憮然として訊ねる、と、彼女は笑いを収めた。否、完全には抑えきれずにしばらくくつくつと喉をならしていたが、大きく深呼吸をして、笑いを飲み込む。
「ご、ごめんね。何か今日はお人好しにばかり会うな、と思っただけよ」
 そして彼女は卓の後ろに回った。何をするのかと思いきや、かがみ込んで、卓の動きを封じているこの忌々しいロープを解いてくれているようだ。結び目は非常に硬いようで、しばらく格闘している気配が伝わってきたが、そのうちロープが緩んだ。手に血がどっと押し寄せて、ひどくしびれた。
「あなたさ、あたしが敵方かも知れないとは、全然考えもしなかったわけなの?」
 するするとロープを解いてくれながら、まだとてもおかしくてたまらないというように、彼女が囁いてきた。
「流歌ちゃんて、ここに捕まってた子なんでしょ。あたしが捕まえた側の人間だったら、流歌ちゃんのこと知ってて当たり前じゃない。考えもしなかったの?」
「え……と」
 そう言われてみればその通りだ。
 卓はようやく自由になった両腕をゆっくりと動かした。関節がぎしぎし言うほどに痛いが、我慢して動かしている内に、少しずつほぐれてくる。
「なんか、あんまりそんな感じがしないから」
 と、言い訳のように卓は言った。この女性の態度はなんだかとても浮き世離れしていて、敵という感じがしないのである。痛む全身にゆっくりと力を込めて、よろけながらも何とか立ち上がる、と、卓の前に戻ってきたその女の人が、卓を見上げてにっこりした。
「お名前は?」
「あ……新名卓です」
 卓は言って、頭を下げた。自由にしてくれたのだから、別段敵ではないのだろう。そう考えると挨拶をするときには自然と頭を下げてしまうのは日本人としての習性だろうか。ともあれ卓はその時彼女の顔に浮かんだ表情を見なかった。卓が顔を上げると、彼女はあでやかな笑みを見せた。
「あたし、宮前珠子。よろしくね、卓くん」

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これで4節終了……なんだかもう……もう……もう。
仙豆は反則ですよね〜(笑)。すみません、ドラゴン○ール読み返していたものですから(何やってるんだ)。


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