綴緝
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幸せになれると思っていた。 今度こそ、二人で幸せになれると思っていたのに。
どうして。 どうして、という問いが頭から離れない。 哀しさが自分でも手をつけられぬほどに膨れ上がる。だから聞こえない振りをする。心の内に響く声を。耳を塞いで聞こえない振りをする。放っておけば暴走して言葉の刃で傷つけてしまう。 ――――彼は、死んだのだ。
しとしと降り続く雨に旅路の足止めを余儀なくされた。 何をするでもなく、ぼんやりと閉めた窓を眺めている。雨粒が時折窓に当たり、つっと流れ落ちる。窓の外は一面灰色の空だ。雲は空に押し込められ動く気配を見せない。風が吹いていないようだから、当然と言えば当然か。 書き物用のつくえに己を抱きしめる格好で腕を置く。湿気でベタベタして不快だ。腰掛けている椅子が窮屈に思えて仕方ない。体を締め付けるほど小さい訳でもないのに。 時間が止まったような――或いは時間が緩やかに流れる、こんな雨の日は。苦手だ。普段は意識の隅に追いやられている無駄な考えを掘り起こされる。 体を前屈みに倒し額をつくえにくっ付けた。 まるで雪でも降っているかのようだ。雨音すら聞こえない。聞こえるのは自分の呼吸音と鼓動、宿の老朽化を物語る足音、階下のざわめきのみ。 ……足音? 廊下から微かに聞こえてくる木材の軋む音。音の間隔から察するに男だろう。階段の方からだんだんこの部屋に近付いてくる。気付くとほぼ同時だった。足音が部屋の前でぴたりと止まったのだ。 誰だろう、と思う間も顔を上げる間も無かった。響いたノックの音に何故か息を潜めた。
――続く。
のんびり連載します。 タイトルは仮題です。巫女姫に変えるかもしれませんし、全然別のタイトルを付けるかもしれません。
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