*
No-Mark Stall *




IndexPastNew
守護者。 | 2006年07月10日(月)
「我が銘は<宵を渡る迅雷>」
常の独り言のような呟きとは異なる、彼の朗々とした口上に応えるように、足元でその影が渦巻き始める。

「その庇護は密にして疎なく、その腕は鳥篭の如く、その意志は何にも穿たれず」

首から下を覆う漆黒の外套の、引きちぎったようなほつれた裾が風もないのにばたばたとひらめく。
その内から覗くはずの両足は既にとぐろを巻く闇の中に埋もれていた。

「紫電の如き鋭さと、深遠なる闇にも劣らぬ寛容をもって」

一点の黒は、布に落ちたインクのように、真白い床に広がっていく。
しおれた茎のように、髪を散らし倒れ伏す少女の元に辿り着いたそれは、音もなく彼女を呑み込んだ。
そうして闇は収縮する。
先ほどまでの禍々しい侵食が幻だったかのように、一瞬で床は純白さを取り戻す。
千切れた裾だけが名残のように数度はためいて、止んだ。

「――汝が守護者たることを永久に約束しよう」


最後の一節だけは囁くように呟いて、ふと優しい笑みを浮かべた青年は、扉の前で凍り付いている兵達に視線をやると心底つまらなさそうに瞬いた。
「……さて。私は今、ここ数百年なかったくらいに不機嫌なのだが」
声も瞳も淡々と、感情を覗かせぬ色をして、彼は改めて周りを見渡した。
無機質と呼ぶのがふさわしいような、冷たい白色の壁と床には何もない。
広々としているのに息苦しいようなこの部屋に彼の雛鳥が囚われていたのかと思うと、とうに沸点を越えたはずの怒りがまたふつふつと煮え立った。
幸い、既に彼女は誰にも害されることのない場所に保護済みだ。どれだけ何を破壊しても支障は全くない。

かつん、と床を叩く無機質な音に、戦に慣れていないわけでもない男達が肌を粟立てる。

目の前に佇むのは闇そのもの。
果てなくきりなく、希望も絶望も全て呑み込んで平然と世界を渡る魔性のひとり。

「……それでは諸君、夜明けまで私と踊ろうではないか」

******

パワーバランスが悪くなるので使い道に困るひとりですこの男。

ストーカーの続きを書いてませんでしたそういえば(というか1度詰まって放置したというのが正しい……orz)。金髪の名前をいい加減出したいんですがどうしよう。
written by MitukiHome
since 2002.03.30