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No-Mark Stall *




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予告もどきを書いて遊んでみる。 | 2008年05月23日(金)
真紅の髪を夜風になびかせ、彼女は艶然と微笑む。
凍りついたように足が動かない。心臓がばくばくと音を立てる。
こちらにむかって伸ばされた、柔らかく細い腕。

真白い月が見下ろしている。


窓に切り取られた光の届かぬ影からそっと姿を見せたのは白い夜着の少女だった。
血の海に呆然と佇む人影を見て、彼女は幾度か瞬いた。
先ほどまでたぎるように渦巻いていた衝動も感情も何もかもがその姿を見た瞬間に凍えて砕け、彼はただ断罪の悲鳴を待つ。
小さな唇がそっと開かれる。


風に流された雲が月光を覆い隠す。
嵐が来る。


広間に集まった親族たちは一様に堅く口を閉ざし、赤い絨毯に視線を落としていた。
渦中の娘はひとりがけのソファに深く腰を下ろし、沈痛な空気などものともせず従者の差し出すカップを受け取る。
彼女が紅茶を飲み下す間、ただ給仕に徹するその従僕は外の嵐に何を聞きつけたのかはっと顔を上げた。主たる娘が視線を向けると、彼はその耳元に何かを囁く。

どん、と玄関の扉が強く叩かれる音がした。


アラン・バーレイがやっとの思いで手に入れたアパートには同居人がいる。
美しく、そして厄介ごとばかりを運んでくる最悪の居候だ。
「やあアラン、突然で悪いが今から気味の悪い田舎町に行こう!」
「は?」
セシル・ケージは一枚の書類をひらひらと振りながら室内に足を踏み入れ、紅茶を入れて人心地ついていたアランを急き立てる。
「今度はどんな妙な事件を拾ってきたんだお前」
「子供が次々と行方不明になっているらしい、それも曰く付きの領主の屋敷のすぐ近くにある町で」

ぱちりと炎の爆ぜる音がする。
緋色の屋敷が燃えていた。


白い腕に愛しげにその頭をかき抱いて、赤い髪をした女の唇が静かに告げる。
「おやすみなさい」


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今書き途中の話の予告編もどき。内容はイメージです実物とは異なります(……)。
written by MitukiHome
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