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No-Mark Stall *




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彼とか彼女とか別離とか。 | 2008年10月25日(土)
遥か高みから見下ろす視線を受け、彼はその目を見返した。
翼をはばたかせる竜の背に立つひとりの娘。
距離ゆえに顔立ちは判然としないものがあるが、それでもその美しい緑の瞳ははっきりと捉えることが出来た。
引き結ばれた唇は緊張以外にその身に潜められた感情を伝えることはなく、ただ重い竜のはばたきがふたりの間の沈黙を満たした。
「……君は」
一度合った目をそらすことも出来ず、さりとてかける言葉を見つけあぐねて彼は開きかけた口を再び噤む。

「……戻ってきてはくれませんか」
心の中に言葉は泡のように浮かんでは消え、彼は沈黙と視線に耐えかねてその中のひとつを声に出す。本当に伝えたいことは別にあったが、それを口にするには様々なものが彼の邪魔をした。
意識して作られた無表情が歪み、彼女は苦しげに眉をひそめた。
翠緑の双眸が閉ざされ、絡み合っていた何かが静かに絶たれる。その証のように、再び開かれた視線には迷いがなかった。
「ごめんなさい」
伸ばす手を拒絶する彼女の方が拒まれているかのような傷付いた顔をしている。そんな表情をさせたくなくて、彼はなんでもないことのように軽く肩を竦めてみせた。
「強情ですね」
「昔からそうなの」
彼女が少しだけ首を傾けて微笑する。髪飾りについた小さな鈴がちりんと細く美しい音を奏でた。
その音色に目を眇め、彼も笑みを浮かべてみせる。
「どうしてもだめですか」
「約束しちゃったの。すごくお世話になってて、大好きなひとだから」
語る彼女の瞳がほんのりと和らぐ。そのような柔らかな表情をさせる誰かにかすかな妬ましさを覚え、彼は心のうちで苦笑した。
「では、力ずくでいかせてもらいましょう」
「……そう」
滞空していた竜が一際大きくはばたいて旋回を始める。
この世で竜の翼に敵うものはない。ただ唇を噛み、高度を上げていく巨体を見つめることしか彼にはすることがなかった。
竜のはばたきが大気を震わせ、空を駆けていく。
「……待ってる」
その小さな囁きを聞き逃さなかったのは幸運だった。
はっとして振り仰いだときには既にその姿は遠く、彼は溜息をついて肩を落とした。

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敵同士での恋愛とか裏切りとかロマンですよね。
written by MitukiHome
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