HIS AND HER LOG

2007年07月20日(金) 夏に死んだ名前

りょう、と彼は私を呼んだ。そんな風に呼ぶのは彼だけだった。
だから私はあの夏の日に、そう呼ばれることがなくなった。
それは当たり前のことだった。
当たり前すぎて悲しかった。
誰もそれを意識しなかったのだろう。
ただ私の中でだけ、発覚した真実だった。

「りょう」
「は?」
「りょうって呼んで」
「何スか、それ」
「いいから、呼んで」

手を伸ばして彼よりも小さな背中を抱く。
この背中が時を経て彼と同じくらい大きくなるまで、
私たちは一緒にいることがあるだろうか。
首もとに顔を埋めて、くちびるで軽く皮膚を食みながら、
私は思い出に浸る。
もしかしたら、誰かにとってはこれはひどく残酷なことなのかもしれなかった。

「涼子さん」

阿部は、私をりょう、とは呼ばなかった。
何故なら、私をそう呼ぶ人間はあの夏の日にいなくなってしまったからだ。
それは当たり前のことだった。


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