うまれた場所とそこをつくったひとをおうちと思うなら もう、それは取り戻せないとおいところに消えてしまっていて だから、あの小説の主人公のように
どこにでも居られるかわりに、どこにもなじまない。
…そんなふうにふわふわといきている。 祖父が逝ってしまってからこのふわふわは また頼りなさをぐっと増した、ように じぶんでは、感じている。 水をつめたビニル袋のうえに乗ってわらう。
本格的に家を出て、トウキョウに移ってから3年、 たまにこうして「帰ってきて」思うのは すくなくともぼくは、 この思いのほか小さな部屋でまだ髪の短い小学生だったころから 今とあまりかわらない場所までそだったのだということだ。
15のときに買ってもらったベッドで 小学校の卒業制作だった彫刻の箱や図書館学の教科書や あのことお揃いで買ったきいろい魚のペンダントがさがる うす茶色の小花の壁紙の、この部屋で。
まもられていなかったわけじゃ、なく でも、護ってもらえたのかはわからない 20年のじかん。
……そんな苦労だけじゃなかったはずだよと いいこともあったはずだよと 曖昧模糊とした視界にさがるカーテンを きずあとだらけの手で持ち上げて キノウをあかるくしようとこころみているぼくもいるのに
いつか、だれか 気づいてくれるかな。
転校生「エンド・ロール」をききながら 真火
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