大学生
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車に乗ってる間、私は殆ど誰の顔も見ずに居ました。 視界の端に隣の男性が入る事もありましたが、やけに座高が低い人だな・・・と妙な感想を持っていました。 後から考えれば、それはふんぞり返るような座り方の問題なのですが。 その頃の私は、K先輩が大好きで、彼らだけではなくほかの男性に対しても、全く興味が無かったので、座り方すら気になりませんでした。
先にM子を家まで送ってもらって、バイト先の駐車場で皆一緒に車を降りました。 同じ建物内にある別の場所で遊ぶMさん達3人にお礼を言って、私はバイトに入りました。 バイトに入ると、すっかり彼らの事を忘れてしまっていました。 もう二度と会う事も無い人たちだと思っていたのだと思います。
閉店間際になって、別のレジに並ぶMさん達3人が居ました。 私が気付いて見た時は、ちょうど車で私の隣に座っていた男性がお財布に目を落としている時でした。 私は彼の顔を見て改めて、「ああ、こういう顔の人だったんだ」と思いました。 どうやら、3人はお弁当を買っていたようで、私は顔を上げて目が合った彼に会釈だけしました。
閉店になり、レジを閉めて事務所に戻る時、社員のTさんに
「Mさんと一緒に居た男の人って、彼氏?」
と突然聞かれました。 どうやら、私が挨拶をしていたので知っているだろうと思ったみたいでした。
「いえ、なんか前のバイトの後輩とかって言ってましたよ?」
普通に私が答えると
「ふ〜ん・・・」
と何やら含みがあるような返事が返って来ました。 Mさんは派手は顔立ちの美人でした。 MさんはTさんよりも年上で、このスーパーでの経歴もTさんより長い事で、社員であるTさんとしては少しやり難い相手だったのだと思います。 Tさんは悪い人では無いものの、時々意地悪な噂好きな所がありました。 多分、この時も、男二人を連れて歩いているMさんについて、何か言いたかったのかもしれません。 ただ、私がMさんとも仲がよい手前、言わなかったように感じました。
女性が多い職場でも、それなりに上手く過ごす事は出来ましたが、やっぱり女の感情みたいなものは苦手でした。 更衣室でも、他のバイトの女性が「Mさんが男連れてた」というような話をしていました。 なんだかなぁ・・・と思いながら、私は無言で着替えました。 正直、私も男性のしかも年下の人と2対1で遊ぶMさんを見て、何も思わなかった訳ではありませんでした。 ただ、私は他の女性たちのように嫌味みたいな妬みみたいな感情ではありませんでした。 決して自分が成りたいとは思わないけれど、「なんか、カッコよくていいな」と素直に思いました。 Mさんは、私の憧れる女性でした。
着替えが済み、「お先に失礼します」と言って外に出ました。 するとそこに、Mさんが一人待っていて、
「お茶しに行かない?」
と誘われました。 私はてっきりMさんと二人で下の喫茶店にでも行くのだと思い、
「30分ぐらいだったら、大丈夫ですよ」
と答えました。
「じゃ、行こう」
と言ってMさんが歩き出した先には、あの白い車が止まっていました。
「え?どこ行くんですか?」
私が尋ねると、
「ここだと、社員とかが煩いからファミレス行こう」
とMさんが答えました。 どうやら、Mさん自身、他の女性たちが色々言っているのを感じて分かっていたようでした。
車に乗ると、当然、他の二人も居ました。 私はまた、後ろの座席に座って歩いても10分もかからない距離のファミレスに行きました。 Mさんの話によると、さっき買っていたお弁当を車で食べて私を待っていたと言うのです。 私は口には出しませんでしたが、「なんで私を待っていたんだろう?」とかなり疑問に感じていました。 御飯も食べ終わったのに、改めてお茶しに私を誘っていくという事が不思議でなりませんでした。 大学生の人たちにとって、高校生という存在はあまり接点が無く、珍しいからかなぁ・・・などと勝手に考えてみたりもしました。
普段、K先輩と食事したりする時のような緊張は、全くありませんでした。 正面に大学生の男性二人が座って居たので、私はようやく彼らの顔をまともに見ることが出来ました。 そこで、それぞれ、改めて自己紹介をしてもらいました。 運転していた人が私の二つ年上で、隣に座っていた人が私の四つ上で。 名前も聞いたのかも知れませんが、私はその後、覚えていませんでした。 印象としては、4つ上の男性は「大人の男性って感じだな」と思いました。 あまりよく顔を見ていませんでしたが、二枚目風に感じていたと思います。 その彼に比べて、運転していた二つ上の男性は、どちらかと言えば三枚目風で。 私は、二つ上の男性の方が親しみ易い感じがしました。
ただ、話すと言っても高校生の私とでは共通の話などはなく。 自然に私の学校の話しになっていました。 どうやら、学校の側に住んでいるのは4つ上の男性らしく、教師が通学路を見張ってるなどを見ているらしく、少しだけ盛り上がりました。 年上の人ばかりに囲まれての会話は、私よりも彼らの方が年下の私に気を使ってくれている感じでした。 それは、なんだか緊張するでもなく不思議な居心地の良さがあり、あっという間に門限の20時を回ってしまいました。
慌てて門限だからと言うと、歩いて帰れるのに車で送るよと言ってくれました。 私が食べた代金は、何故か大学生の人が御馳走してくれました。 そして、まだ、これから遊びに行くんだという3人に家の側でお礼を言って、車を降りました。
そして、家に帰り、遅いことで母親に少しだけ文句を言われ 「レジのお金が合わなかったから」 と嘘をついてやり過ごし、寝る前にK先輩のセーターを少し編んで眠りました。 翌日、友達のMと少しだけ帰りにファミレスに行ったという話をしました。 バイトに行った時に、Mさんにお礼も言いました。 その時、
「○○(二つ上の大学生)が、亞乃ちゃん可愛いなぁ〜って気に入ってたよ」
と言われましたが、「そうですかぁ?」と笑って流しました。 それはきっと、大学生が妹というか子供を見る感覚での言葉だろうと受け止めたのです。 私にとってはK先輩が居る事も勿論ありますが、大学生などは遠い大人の存在でした。 それに、大学生が高校生を相手にするとは全く考えなかったので、まともにMさんの言葉を受け止めませんでした。 そしてそのまま、すっかり彼らの事は忘れてしまいました。
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