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人物紹介



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海が見たい。
そう思っていました。
だから、起き上がって見た景色が海に向う道だと分かると
海経由で送ってくれるんだ・・・と思って、嬉しくなりました。

「上着、有難う御座いました」

と言って私はかけていた上着を取りました。

「後ろの席に放っておいていいよ」

とその人が答えてくれたので、上着を置くために身体を後ろに傾けました。
その時、その人との距離が近くなり、上着と同じ匂いがしました。
そして、車が海岸線の手前の信号に止まると、

「今日、バイト休みなんだよね?時間大丈夫?」

とその人に聞かれました。
なんでそう聞かれたのかを考える前に、

「あ、大丈夫ですけど・・・」

と私は答えていました。

「じゃぁ、ちょっとドライブ付き合ってよ」

と言うと、その人はそのまま自宅とは反対方向の海岸線に車を走らせました。
その道は、子供の頃に両親と釣りに行く際によく通った大好きな道でした。
いつも後部座席に乗って眺めていた頃と、変わらぬ景色でした。
もっと、海が見たい。
そう思い、視線を海の方、右に向けると。
そこにはその人の顔があり、私は急いで視線を逸らしました。
自分が男性と居る事を、また急に意識しだしました。
仕方なく、私は斜め前方を見る事にしました。

でも、さほど私は緊張していませんでした。
それは、その人のざっくばらんな喋り方なのか。必要以上に話さない態度なのか。
横を向いた時に視界に入った、少し微笑んでいるような優しい表情なのか。
上手く表現できませんが、隣に居るその人は、まるで前からの知り合いのような錯覚を感じさせる人でした。
実際にそんな人は居ませんでしたが、小さい頃から遊んでいた近所のお兄さんが居たとすれば、その人とドライブしているような。
そんな自然な感覚でした。

私は急に、制服姿の自分が年上の男性とこうして車に乗ってる事が、すごく不自然な気がしました。
なんだか釣り合いが取れてないというか。
それに、普段から学校帰りに遊びに行く時は、いつも二つに結った髪を解いていました。

「あの、髪の毛ほどいてもいいですか?」

そう尋ねるとその人は

「いいよ」

と、前方を向いたままで返事をしてくれました。
突然言い出したにも関わらず、その人は特に驚くこともなく。
私の方を見ることもしない、その返事の仕方に、ますます私は好感を覚えました。
私は、髪の毛が落ちないようにそっとゴムを外し、髪の毛を整えました。
それでも、少しだけ髪の毛が落ちてしまいました。
私は、自分の髪の毛が車に残っていては申し訳無いと思い、

「あ、もしかしたら髪の毛落ちちゃってるかもしれないです。すみません。」

と言いました。

「別にいいよ、気にしなくて。彼女に怒られる訳でもないから」

と、少し笑いながら男性が答えてくれたのですが、私は一瞬意味が分からず

「え?」

と聞き返していました。

「いや、俺の車だからさ。別に文句言われないから」

その答えに釈然としないものの、「ああ、そうなんですか」と曖昧な返事を返しました。
気にしないで良いと言われたものの、私は落ちてしまった自分の髪を、やっぱりどうして良いのか分からずにいました。
車内にはゴミ箱がありましたが、そこに捨てるのも気が引けました。
窓を開けて捨てる事も考えましたが、それもなんだか髪の毛なだけに、自分は良くても相手にとっては気持ち悪い事のような気がしました。
結局、私はその髪をどうする事も出来ずに、自分の手の中に仕舞いました。

そして、急にさっきの会話の意味に気付きました。
もしかして、私が言った言葉を「彼女に申し訳無い」と取ったのだとしたら・・・
この人の答えの意味は、彼女は居ないから大丈夫って事なるんじゃないだろうか?
この人に彼女が居るかどうかなんて、全く考えもしなかった。
だけど、あんな聞き方したら彼女が居るかどうか探ってるって取られても仕方無いんだ。
そんなつもりじゃなかったのに。
だけど、その後に私が聞き返したから・・・
違うんだって気付いて、ああいう答え方に変えてくれたのかもしれない。

私は自分が情けないと思うと同時に、その人の対応の仕方をすごく大人に感じ初めていました。
車に乗った時に、すぐ上着を貸してくれたり、見たいと思っていた海に偶然かもしれないけど、連れてきてくれたり。
この会話といい、すごく自然な気遣いをしてくれる人だと思いました。

そんな事を考えていると、

「ちょっと、お茶しようか」

と聞かれ、私が返事をしないうちに車は海沿いの店に入っていきました。
その店は、昼は喫茶店で夜はバーになる。そんな感じの店で、高校生が制服姿で入るには相応しくない雰囲気の店だと思いました。
でも、さっさとその人が車を降りてしまったので、私も慌てて車から降りる事にしました。

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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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