睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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「今日はね、母さんがんばったよぉ」 三段重ねのお重が風呂敷包みから出てきた。 「普段、お互いに一人で食事しているでしょ?久しぶりに一緒だから○○の好きな物たくさん作っちゃったら三段になっちゃったよ」 そういって年齢より若く見える母さんが笑う。
母さんの見た目は綺麗な訳ではなく上品なわけでもなくまぁ、どちらかと言えば 肝っ玉母さん系でおしゃれにもあまり気を使わないし言葉遣いも良いほうではない 休みもなんだかだらだらと起きてこないし家事全般が苦手だ。 うっかり者でそそっかしいところもあり、いわゆる天然と言う性格だ。
それでもなぜか仕事はバリバリやってるし飽き症な性格からか転職が多い割には仕事の切れ間がほとんどない。 何より仕事のことになると急に欲が出るようでいつも「出世したい」が口癖だ。
そんな母さんが珍しく朝早くから起きてごそごそしていた。 「○○、出かけるよ〜 支度して〜」
何ごとだ?なんて思いながら言われたことに従わないと拗ねるので急いで支度をして部屋から出ると 「花見いこ〜」 なんだか、遠足前の幼稚園児のように嬉しそうにしている母さんがいた。
こうなったら付き合わないとうるさいのでついてきたが・・・ 久しぶりに外に出たような気分だった。 綺麗に晴れた空を隠すように息苦しくなるほど淡いピンク色の花びらが咲き誇り 風が吹くたび雪のように舞い散る。
母さんは気分転換が上手だ。 睡眠が一番だっていつもは言うけど、季節のものは絶好のタイミングを逃さない きっと今日が一番の見ごろなんだろう。
「お稲荷さんが教えてくれたからねぇ」
母さんは変な人だった。 鎮守のお稲荷さんと話ができるというのだ。
たしかに動物とも微妙に意思疎通が図れるようではあるけど・・・
そんな風に思っているうちに強い風が吹き始め僕の周りを櫻の花びらが包んだ。
・・・・・・・・・・・・息苦しい・・・・・・・・・・・・
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