今回は映画ネタ。見てきたのは「鉄コン筋クリート」 この映画に関しての印象は大きく分けて二つある。
一つは、「子供たち(かつての子供たちも含む)に、空を飛ぶ感覚を思い 出してほしいなあ」という事と、 もう一つは「この映画がアカデミー賞のアニメーション部門でオスカー が取れたらいいなあ」である。
「鉄コン筋クリート」は、今から10何年前、私がまだ学生だった頃に、 ビッグコミックスピリッツで連載されていたマンガである。 作者は松本大洋。 数年前に実写化された「ピンポン」と並び、その独特の世界観が魅力的な 漫画家である。 連載当時は、私もむさぼるように読んでいた事を思い出す。 ちなみに私が一番印象的な松本大洋作品は「花男」なんだけど。
で、10数年前の作品という事もあり、最近読んでなかったんで記憶が あいまいなまま今回この映画を観たんだけど、でも原作の持つ、 松本大洋の描く世界の魅力を再現することに、この映画は成功している んじゃないのかな。
時間的な配分も、1時間50分という時間を気にすることなく、物語に 没頭できる感じで心地よかったと思う。
特によかったのは、作画もそうだけど、主人公の二人、シロとクロの 声を演じた、蒼井優と二宮和也の声の感じがぴったり合ってたと思う のだ。 特にシロの方は、蒼井優という女優が演じている感じがしない位、 バッチグーだったし。
この物語の主人公って「街から消えゆく路地裏と、そこに生きる人たち」 なんじゃないかな、と今回この映画を観て思ったのだ。 原作が描かれた頃の日本って、土地バブルの真っ只中で、地上げなどの 都市再開発が花盛りだった頃の記憶を思い出してくれる。
そして今の日本も、都市再開発が盛んになり、路地裏などの見慣れた 懐かしい風景がなくなりつつある、という意味では、今の時代にこの 作品がアニメ化されるのは、タイムリーだと思う。
東京新聞に掲載された監督のインタビューによると、この作品の中に 出てくる商店街の一シーンは、今度再開発されてしまう、下北沢駅前 の商店街をモデルにしている箇所もあるらしい。 こうして私たちはまた、路地裏というものを失っていくのかもしれ ない。
でそれって、何も日本だけに限らず、例えば上海とか、台北とか、 同じような郷愁みたいなものをこの映画を観て感じる人は多いんじゃ ないかな、と思ったりするのだ。
だから、この作品が世界に配給されれば、多分アカデミー賞でオスカー が取れたら、ジブリアニメだけではない、外国人の感じるクールな日本 の魅力みたいなものが、もっと世界に伝わるんじゃないかな、と思う のである。
で、そういうものの魅力って、多分日本人より、外国人の目を通した 方がはっきりとするのかもしれない。
もう一つは、この映画を、今の世の中の閉塞感にうんざりしている、 今の子供たちとかつて子供だった大人たちに見てほしいなあ、と思った りするのだ。
で、ええと、ここからちょっと変な話を書きます。 自分が子供の頃って、シロみたいに、空を飛べたと思うんだよね。 それはもちろん、想像の中でだけど、例えば木造二階建ての家くらい だったら、この屋根を飛び越したらどんな光景が見えるのかなあ、 なんて想像した瞬間が、私たちの子供の頃には、確かにあったような 気がするのである。
それは、ガンダムとかウルトラマンとかTVゲームで遊ぶのと同様に、 空想にふける時間というのが、日常生活の中にきちんと含まれていた ような気がするのだ。
で、多分自分の場合、小学校を卒業するくらいまでは、そういう空を 飛ぶような感覚が残っていたんじゃないかな、と思うんだよね。 これは昔、原作を読んだときにも感じたことを思い出したんだけど。
今の子供たちって、もしかしてお受験とか、沢山の習い事や、TVゲーム で、もしもそういう自由に空想できる時間っていうのが無くなって しまっているのだとしたら、それはもったいないなあと思うんだよね。 そういうのって、その時期にしか出来ないものだと思うし。
だからもしもこの映画を観て、そういう空を飛ぶことの気持ちよさを 感じられたら、それだけでも心が豊かになるんじゃないかな、と思う のだ。 そういう感覚を大人になって思い出して(ひそかに)持っていることも、 結構貴重なんじゃないかな、とも思うので。
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