パラダイムチェンジ

2006年12月24日(日) M1グランプリと笑いとギラギラしたもの

イブの日、TV番組のM1グランプリを見ていた。
プロ・アマを問わず結成10年目までの漫才師を集めて賞金1000万円を
争ってしのぎを削るお笑い番組である。

毎年(悲しいことに?)、このM1グランプリと明石家サンタを見るのが
恒例になってしまっている。
(ちなみに今年の明石家サンタは、若槻千夏が出てた瞬間が一番面白
かったと思うが)

で、今年のM1グランプリは、初めてアマチュアである、素人OLの
2人組が決勝ラウンドに出ることや、以前優勝したフットボールアワー
が再挑戦することが話題になっていて。

ということで期待しながら(年賀状を印刷しながら)見ていたときに、
審査委員長の島田紳助が、予選の途中でこんなことを言っていた。
「今年はまだ、会場の爆弾に火がついてない。もしもこのままやったら
今年は失敗やで」と。

それまでの出場者たちも、決して笑いを取ってなかったわけではない。
でも番組を見ていて、確かに似たような感じは自分も感じていたので
ある。

それが一番印象的だったのは、元チャンピオンのフットボールアワーが
登場した時だった。
今年の彼らの漫才を見ていて、確かに上手いなあ、とは思ったんだけど
以前彼らが優勝したときの印象と比べて、何が一番違うのかといえば、
多分彼らの目に、絶対この賞を獲ってやるぜ、というギラギラしたもの
がなかったような気がするのだ。
まあ、これは一素人の単なる印象でしかないのだけれど。

でね、多分、島田紳助がこのM1グランプリをプロデュースして一番
欲しいものは、そういうギラギラした目を持つ若手の登場だったんじゃ
ないのかな、と思うのである。

多分、このM1グランプリの決勝ラウンドに限らず、準決勝に進出できる
お笑いグループって、技術的にはきっちり笑いが取れる実力を兼ね備え
た人たちなんだろうと思う。

だけど、島田紳助がこの大会の優勝者に求めるものって、この決勝とい
う場で、単に技術だけでなく、笑いの神様が降りてきた瞬間を観客が
目撃し、一緒に体験できること、なんじゃないのかな、と思うのだ。

でそれって、多分、かつての漫才ブームの頃の島田紳助にはあって、
今の島田紳助には無いものなんじゃないかな、と思うのである。

つまり、かつて紳助が紳助竜助のコンビを解散しようと思ったときに、
まだ売れてなかったダウンタウンの漫才を見て決心したように、
こいつらにはかなわんわ、という彼の羨望と嫉妬心を喚起できる位、
会場と観客に愛された漫才コンビにこそ、優勝トロフィーと賞金を
あげたかったんじゃないのかな。

で、考えてみると昨年の優勝者ブラックマヨネーズにしても、その前の
優勝者たちにしても、皆何かギラギラしたものを持っていたような気が
するんだよね。

今年の場合、さっきの紳助の発言のあった直後に出てきた、チュートリ
アルが一番観客を沸かせて優勝し、確かに彼らがこの大会で一番ギラギ
ラしたものを持っていたと思うのだ。
だけど、今回の大会全体を見渡した時のギラギラ度みたいなものは、
今までの大会よりは若干低いものだったんじゃないかな、という気も
して。
いや、だからといってチュートリアルに優勝者の価値がないとか言いた
い訳ではなく。
実際、彼らが一番面白かったし。

個人的な憶測で言うならば、島田紳助にしてみると、毎年決勝に進出す
る、実力者の常連組に混じって、まだ結成したばかりの荒削りだけど
勢いのある若手とか(最初の頃の笑い飯とか)、もしくは今までパッと
しなかったけど(失礼)、結成10年目の最後のチャンスに賭けようという
思いを持った漫才コンビ(昨年の品川庄司とか)が、今年出てきて化ける
ことに期待していたんだろうなあ、と思うのだ。


その一方で、今回初めて決勝に出てきたアマチュア、変ホ長調に対して
紳助をはじめとして審査員の点数が辛かった。
紳助はコメントを求められて「どう評価していいかわからへん、はっきり
言ってボークやし」と言っていた。

その発言を個人的に推測するならば、彼女らのやっていたネタは、プロ
としては、ヤバすぎて出来ないネタだということだろうと思うのだ。
禁じ手というか。
加えて、漫才はテンポと間が命、と思う紳助的には、技術的にも評価が
しにくかったんじゃないかな、と思うのである。

だけどね、実は一番素直に笑えたのって、彼女たちだったんだよね。
それは、初めて見る、新鮮さというのも多分にあると思うんだけど。
素人の自虐的な笑えるブログを読んでいる感じに近いというか。

で、実は今回のM1グランプリを見ていて、改めて人を笑わせるって
難しいんだなあ、と思ったのだ。
演者が、笑わせようと躍起になって肩に力が入ってしまえばしまう程、
(本人たちは百も承知だと思うけど)笑いからは遠ざかってしまう。

だからそこら辺、プロたちは力技というか、自分たちの技術や雰囲気で
観客を笑いに導いていく。
それに対してアマチュアの彼女たちは、いい具合に肩の力が抜けて
見えたのである。
それは、「私たちこんなの面白いと思ってるんだけど、皆もどう?」と
いう、おすそ分けの感覚に近いというか。
多分この辺がブログの感覚に近いのかもしれない。

で、それってプロたちにはやろうと思ってもなかなか出来ないことだと
思うのだ。彼らには生活がかかっているわけだし。
でもね、もしも彼女たちが、他のプロと同じくギラギラして肩に力が
入っていたら、多分決勝までは来られなかったと思うんだよね。
多分、それがアマチュアがプロに勝てる武器になっているのかもしれ
ない。

だから、彼女たちにはいつまでもアマチュアリズムを貫いてもらって
できれば来年もM1の舞台で見てみたいなあ、と思うのである。
アマもプロと同じ舞台で戦える、というのがこのM1の目玉の一つでも
あるわけだし。


 < 過去  INDEX  未来 >


harry [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加