2007年01月29日(月) |
映画「それでも僕はやってない」 |
今回は映画ネタ。観てきたのは「それでも僕はやってない」 「Shall We ダンス?」の周防正行監督作品のこの映画、一言でいうと 「悲しいけど、これが現実なのよね」である。
痴漢(冤罪)事件の裁判を描いたこの作品、日本の司法制度を問題にして いて、監督自身のインタビューを含めて多分いろんな人が感想を書いて いると思うので、ここではひとまずおいておくとして。
この映画、1本の映画としてもよくできていると思うのだ。
周防監督曰く「この映画では嘘はついていない」そうである。 すなわち、物語を盛り上げるためのわざと盛り上がるような演出や、 抑揚をあえて抑えて作っているらしい。
かといって映画が面白くない、という訳ではなくて、結構笑いが 出てしまうのだ(竹中直人の役とかね)。
もう一つは、キャスティングが上手いなあ、と思うのである。 被告になってしまう主人公の加瀬亮は、確かに自分がやってない痴漢 冤罪事件に巻き込まれそうな感じだし(映画ハチクロではストーカー 寸前だったし)、役所広司演じる人権派?の弁護士は、彼がいるだけで 百人力の感じだし、被告の担当弁護士になる瀬戸朝香が、最初被告が 痴漢をやったのではないか、と疑いながら、日本の司法制度の問題点に 気がついていくあたりもピッタリだと思うし。
被告の友人に山本耕二を持ってきたり、被害者の中学生に本当にいたい けな少女を持ってきたり、それぞれの人たちが、本当に役にハマって いる感じになっていて。
そしてもう一つは、そんな風にそれぞれの役者が役に命を吹き込んで いるおかげで、この映画はいろんな人の立場で観る事ができると思う のである。
被告、加瀬亮の立場で見れば、自分が犯行を否認しただけで4ヶ月もの 長い間、留置所暮らしをして警察・検察に取り調べられるバーチャル 体験ができるし、またその自分が友人・家族だったらどうだろう?とか この裁判の傍聴人だったらどう感じるんだろうか、はたまた自分が 判事の立場だったら、これらの証拠に対してどういう判決を言い渡すん だろうとか。
この映画の最後の判決とその理由ががどうだったのかは、是非この作品 を観ていただくとして。 もしも、自分が判事(裁判官)だったら、どうするんだろうなあ、と思う のである。
元々、司法の原則は、「推定無罪」である。 それは、被告が罪を犯したという確固たる事実・証拠がなければ、 有罪にしてはいけない、という司法制度の大原則である。
しかしながら日本の刑事裁判で有罪を言い渡される確立は、この映画に よれば99.9%。 無罪になるのは1000人にひとり。 すなわち検察が不起訴にせず、起訴した事例のほとんどは有罪になる。
もしもそれをひっくり返すためには、(たとえ自分自身が罪を犯して いないと知っていても)、自分が罪を犯していないという明白な証拠を 弁護側、被告側が用意しなくてはならない、らしい。
そこまで判事が有罪にこだわるのは、頭のいい人(判事)ほど、被告が 自分をだましているんじゃないかと疑い深く慎重になったり、場合に よっては無罪を出すことは、国家権力である検察・警察に楯突いて喧嘩 を売ることであり、上級審でその無罪がひっくり返されたりした場合、 地方に飛ばされてしまう、なんて噂されてしまう事もこの映画によれば あるようで。
だから時として日本の刑事裁判は、始めに結論(有罪)ありき、推定有罪 のように見えるらしいのだ。
でね、先ほどもしも自分が判事だったらどうしよう、と書いたんだけど 実際問題として、その可能性はゼロではないんだよね。 それは近い将来、導入されるといわれている裁判官制度で、指名が来て しまった場合、その立場になる可能性もあるという事でもあり。
昔、高校時代の演劇で、アメリカの陪審員制度を描いた「12人の怒れる 男たち」という作品を上演して、陪審員役を演じたことがある。 だから個人的には、裁判官制度もそんな感じなのかな、とちょっと想像 はしやすかったんだけど、でも、この作品を見て考えてしまったのだ。
果たして人が人を(それも素人が)裁けるのかな、という気がしてきて。
もしも自分が下した判断が、検察の作文に乗っかって、それがもしも 冤罪だったとしたら、その責任ってどこにいくんだろうか。 はっ!もしかして裁判官制度は、そんな風に司法行政の責任逃れの為? なんてうがった見方もしたくなったりして。
もう一つは、もしも自分がこの被告の立場だったらどうするだろう、 と思ってみたりして(こっちの方が可能性は高いのかもしれないが)。
でも、被告の証人尋問がたったの一回だけで、そこで判事の疑いを 晴らすために立証を自分がしなくちゃいけないとしたら。 もしもその1回だけで自分の人生が変わってしまうとしたら。 (その前に冤罪であったとしても刑事裁判の被告になった段階で、自分 の人生は大きく変わっていると思うが)
果たして自分の心を折らずに、戦い抜くことができるのかなあ、と 思ったりして。(冤罪であるならば、戦いぬきたいと思うが)
いずれにしろ、映画としても面白くて、時間もあっという間だったし、 見終わった後にいろんなことを考えさせられる作品だと思います。
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