■□■映画
「花井君v」
絶対に語尾に不穏なハートマークがついているとしか言えないような笑みを浮かべて、モモカンこと百枝監督がタオルを差し出してきた。
花井は、周囲を見渡した。
「なんスか」
近頃、百枝と話すとき心拍数が上がる。 始めは美人で年上で目を逸らしたくなるような肢体だからだと思っていたが、実はそうではないような気がしてくる。
「実は、深夜のバイトでね貰ったんだけど」
はいっとにこやかに取り出したのは、駅前の映画館の優待券だった。しかも、それは今花井が観たいと思っているサイコ系のミステリ作品だった。
「あげる」
「え?」
「こういうの、みんな興味なさそうだけど、花井君、好きなんじゃない?」
「はぁ、まぁそうスけど…」
チケットを握る手は、かすかに荒れていた。百枝が部のためにどれほど頑張っているか、花井の想像ではきっと追いつかないだろう。
「監督は行かないんスか?」
「私?いらない、いらない。一緒に観てくれる人いないし。それペア招待券なんだよね」
言われて見ると、確かに「二名様ご招待」と書かれていた。 けれど、これは百枝が頑張って働いた糧に貰ったチケットだ。 野球に費やしていなかったら、彼女だってお洒落して映画を観て、お茶をして……クラスの女子達が話しているような生活を送っていたに違いない。
こうまで野球に情熱を掛ける理由は知らないけれど――。
「監督、だったら今度の練習休みの日、バイト入れないで下さい」
「なんで?」
「これ、監督が貰ったもんスから、先生が観ないと」
「でも、一緒に観に行く人いないんだって」
「だったら……俺が一緒に観に行きます」
「え?」
「絶対、空けててくださいよ。アンタだって、時には普通の女の生活送ったっていいじゃないっスか。だから、精一杯、お洒落でもしてきてください。茶ぐらい、俺が奢ります」
花井はそう一息に言うと、紅くなる頬を隠すように、くるりと背を向けた。 きっと百枝はぽかんとした顔をしているだろう。 自分自身、なんでこんなことになったのかが分からなかった。
ただ荒れた手を見て、その手を少しだけ癒したいと思ったのだ。
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というわけで、このコンテンツ初のお話は、俺らのキャプテン梓のお話でした。これはそのうち書きなおして小説の部屋に移動させたいなぁと思っていたりします。 ハナタジも好きなんですが、花モモも好きなんだー!!
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