■□■夏模様
夏が近づくと、自然と耳がよく聞こえるようになる。 川のせせらぎや、木の葉のざわめき、虫の声、風の音色。
あふれてくる音が、身体を支配していった。
はやくこの感動を伝えたい。そして、その音の中を走り回りたい。
うずうずと身体を駆け巡るのは、なんなのだろうか。
「修、いらっしゃい。廉ちゃんが来たわよ」
玄関先から聞こえてくる母親の声に、ぴょんと身体を起こした。頬に畳みのあとがついているのが、気恥ずかしい。 ごしごしと擦って取れるものではないとわかっていても、赤くなるまで擦ってしまう。
「修悟っ、何してるのぉー。廉ちゃんよっ」
少し甲高くなった声に慌てて居間を飛び出した。りりんと風鈴が鳴る。 休みになるとやってくる友達を、いつも楽しみにしていた。
「廉っ、蝉取りにいこうぜ!」
「何言ってるの!今から、図書館にいくのよ」
「え?」
玄関先に佇むのは、麦わら帽子が2つ。みつあみの少女と、ぽやぽやヒヨコ頭の少年だった。
「ちぇーっ、廉だけじゃないのかよ。なんでお前まで」
「レンレンは、私のいとこなの。レンレンが叶もって言うから、誘ってあげてるんじゃない」
「る ルリちゃん、図書館に本返しに行ったあと、蝉取りしようよ」
にっこり笑うと、暑かった風が涼やかになる。
「しっかたねぇな。廉が言うなら、図書館付き合ってやってもいいぜ」
「だったら、レンレンが言うから、仕方なく蝉取りに付き合ってあげるわ」
そう同時にいうと、何故だか笑いが混み上げてきた。教室では喧嘩ばかりで、一緒に笑い合うなど殆どない。
けど、廉が加わるだけで、瞬く間に緊張も蟠りもなくなって、皆で一緒に風を抜けていく。
だから、夏が待ち遠しい。はやく夏が来ればいいのにと願っていたのは、その僅かな時間が宝物だったからだ。
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修ルリ廉の幼馴染小噺でした。 基本、カノルリ派です。これも、修廉に見せかけて、カノルリです。 いつもは喧嘩ばかりしている2人の潤滑剤がレンレンという設定です。だから、2人にとって何よりも大切なのは、レンレンなのです。
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