ねぇ、君の視線の先には、何が見えてる?
練習試合の後、バスに乗り込む生徒達を眺めていた百枝の視界に、ふと眉を顰める花井が映った。
微かな動きだった。 まだ子供っぽさが残る部員の中で、花井は少し大人びている。 長男ということと、中学時代もキャプテンとして皆を引っ張ってきたというのもあるのだろう。 彼は、物事をはっきり言いながらも、それでも半分以上を胸のうちに閉まっているということを百枝は知っていた。
その花井が悩んでいることも――。
花井の視線を辿ると、無邪気に騒ぐ田島がいた。
(田島くんは田島くん。花井君には、花井君にしかない良さがあるんだけどな)
ふぅと息をついて、一本に結わえた髪を解いた。
突然目の前に立ち塞がった壁をなんとか乗り越えさせなければと思う。 けれど、プライドの高い花井がそれを受け入れてくれるかも分からない。 いや、口にすれば反発するだろう。けれど、口に出さなくても聡い花井のことだ。きっと気づくに違いなかった。
(踏ん張って、くれるよね)
百枝の視線に気づいて、花井がこちらを向いた。 ドキッと胸がなる――それは驚きなのか、そうでないのか。 時々あの真っ直ぐで精悍な眼差しに、耐えられないときがある。
「監督、荷物持ちますよ」
大股で歩いてきて、さっと百枝の足元の鞄を持った。
「あ、重いよ」
言うのが遅かったのか。花井は苦々しい顔をして、百枝を見た。
「何、入れたらこんなに重くなるんスか」
「うーん、なんだろうね」
「一応、女なんだから、あんまり重いもん持たねぇ方がいいっスよ」
ブツブツ言いながらも、その荷物を肩に担いだ。 重たいといいながらも、軽々と運んでいるように見えた。
「男の子なんだもんね」
その背中に呟く。聞こえるか聞こえないか。百枝にしては、小さな声だった。
「何スか?」
それでも花井は振りかえる。
「ううん、なんでもないよ」
ふるふると頭をふる。訝しげにこちらを覗う花井に、百枝はにっこり笑った。
「花井君」
もう一度、花井は足を止めた。 バスの中から、出発するぞーと、生徒たちの賑やかな声が響いた。
「君の空は、まだまだ高いぞ」
隣りを駆け抜けながら、その背をポンと叩く。 意味が分からないという顔の花井は、暫く立ち止まって、そしてエンジンを掛けるパスに慌てて乗り込んだ。
騒ぐ田島たちを窘めながら、ちらちらと百枝を覗っている。 くすくすと座席に隠れるように笑った。
ねぇ、空を見上げて――君というボールは、まだまだ高く遠く青空に飛んでいくんだからね。
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久しぶりの、花モモ。 今月のアフタ読んで、たまらなく書き殴ってみました。
ハナタジも好きだけど、花モモも大好き!!!
梓〜〜、頑張れ〜〜〜!!!
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