デイドリーム ビリーバー
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2003年10月15日(水) 変わっていく私達

彼所有のデジカメに、また何枚か、二人の思い出がたまったので
いつもの写真屋へ立ち寄った。

端末の画面を見ながら、これはいる、これはいらないって言い合って
シーズンごとの思い出を、整理する。

印刷を待っている間、あの時はこうだったね、この時はああだったよねって
なにげなく話す内容が、
もう、思い出話になってるんだって気付いて、少し感動した。


私の意識の中では、
いつでも私は「新しい彼女」だったんだけど、
いつの間にか、気温はぐんぐん下がって
あの季節に近づいてる。もうすぐ2年。

2年って言えば、私にとっては最長記録です。
もうすぐ29歳にしてのこの記録は、少し情けなくもあるけど。



最近でこそ、こうして、シーズンごとに印刷できるほど、写真を撮ってるけど
私たちは、最初の一年、ほとんど撮ってなかった。

なぜなのか、あまり深く考えようとはしてなかったけど

今なら少しわかる。写真を撮るのが、恐かったんだ。
二人の姿を残すのが、実は、ずっと恐かった。


そのことにはっきり気付いたのは、今年の冬。
僕の生きる道っていうドラマで。

余命一年と診断された、私と同じ年の主人公が
自分の生きる道を模索していく話だったんだけど。

その中で
せっかく結婚式をしたのに、主人公達は写真を撮らなかった。
それまでも、一枚も撮ってなかった二人。

この瞬間の出来事が、過去になってしまうって思いたくなかったから
なんとなく撮る気になれなかった
みたいなことを、主人公は言ってた。

だけど、主人公が突然倒れて。
ようやく目を覚ましたその病院のベッドで、相手役の女の人が言うの。
写真が欲しいですって。
私、そのシーン見ながら、ぽろぽろ泣いちゃって。

私、別に余命が一年とか、そんなんじゃないのに
同じような気持ち持ってたこと
そして、
私も写真が欲しいって、ずっと思ってたことに
この時、ようやく気付いて。


あまり意識はしてなかったけど
今にして思えば、多分二人とも、心の片隅に恐れがあったと思う。
いつか、終わってしまうかもしれないって。


私は私で
彼がいつか彼女の元へ帰るかもしれない、という恐れがあったし、

彼は彼で、多分
私が突然冷めるんじゃないかっていう不安が、あったと思う。


長くつきあった彼女と別れて、不安定なまま
それでも私と向き合おうとしてた彼に、
今にして思えば、私は随分、冷めがちな態度をとっていた。

あの頃の私には、あれで精一杯だったんだけど。

「宙ちゃんはいつまで俺のこと、こんなふうに好きって言ってくれるかなあ」
「そのうち、俺のことなんか、どうでもよくなるんちゃうかなあ」
彼は時々、そんなふうに言ったりしてた。

もともと私は、一人でも生きていけるタイプで。
ひとりで過ごす時間が好きだし、男に甘えるのは嫌いだし、
束縛する男や、女の子扱いばかりする男も嫌いで、

友達だった頃は、彼にも
一人の人と長く付き合ってるなんて、すごいね、えらいね、なんて言ってた。
決して、いいねとは、言わなかったんだ。
私にはできないなー、やっぱり一人はいいよ、気楽だよなんて、平気で言ってた。

今となっては、それも、もう2年以上前の話。


彼は、基本的に、ドラマは見ないけど、
このドラマだけは、私につられて見るようになって

ドラマの内容について話したりはしなかったけど
彼なりに、いろいろ感じることはあったらしく

この頃から、ぽつぽつ写真を撮るようになったのは
偶然じゃないと思う。



この2年
私も変わったし、彼も変わった。

もちろん変わらない部分もある。
変われない部分も、そして不安も、あいかわらずあるけど。

この2年
二人だけの秘密が増えて。二人だけの約束事がうまれ。
二人にしかわからない言葉も、たくさんできた。


同じ台詞を、同時に言ってしまう。

電話をかけるタイミング、メールを送るタイミングが、一緒だったりする。

偶然と言うには、多すぎる、こんな経験が
ああ、つながってるって、思わせてくれる。



帰り、彼の車のBGM、
ラジオか、テレビの音声だったか
聞いたことない曲だけど、歌の声から、aikoかなあと思っていたら、

Bメロからサビに向かうところで、やっと何の曲かがわかって

「ほっといてーのやつだ!」って

「ほっといてー」の部分、CMの真似して言ったのが
また二人同時だったから、笑った。


“交差点で きみが 立っていても
 もう今は 見つけられないかも しれない”

サビの部分を、ノリノリで歌いながら(ていうか、サビしか知らないくせに)
つないだ手をぎゅっぎゅって握って、私のほうを見ると
嬉しそうに二カッと笑った。


多分、「そういうこと」なんだと思う。

「そういうこと」が、言いたかったんだと思う。

全体の歌詞を見たら、まったく違う意味なのかもしれないけど
私たちは、CMで使われた、
この明るい曲調と、声の、この部分の歌詞しか知らないから。

「前の彼女のこと、こんな感じに、もう思い出になってるんだよ」って。

「こんな風に笑えるぐらい、いい意味での思い出になってるんだよ」って。

そんなこと、言葉にしては、一切言わないけど。
だから、私の勘違いかもしれないんだけど。
だけど、そうなんじゃないかなって、思った。


彼女のこと、こんな風に、言ってくれるのは嬉しい。
後ろ向きでなく、素直に、すがすがしく、今は私だよって。
言葉にはしないで。

だけど、それってなんていうか、くやしいので。

微妙な話題のはずなのに、
こんな表現なら大丈夫って、
それどころか、嬉しい気持ちになるだろうって
見抜かれてしまってるのが、くやしい。

口を尖らせて彼を睨みつけたら
彼は、嬉しそうにあははって笑って、私の頭を優しくポンポンと叩いた。


ほらね、やっぱり。
「そういうこと」だったんじゃん。



「宙ちゃんかわいいなあ。俺、宙ちゃんだいすきやー」
なんて、笑いながら言ったけど
私は、口を尖らせてる手前、「私もー」なんてかわいいことは言えないから

「あっそー」って言ったら
「うん、そう」ってニコニコされて

もう私は、完全に、
むくれた顔を戻すタイミングを逃してしまって

「へー、そう」
「うん、そう!」
「よかったね」
「うん、よかった!」
「ふーん」

そのまま、口を尖らせたまま、黙りこくってたら
「おー、喜んでる、喜んでる」って、
まるで、動物にエサあげたときみたいな言い方するから

ますます睨みつけたら

「おー、今度は、○ンコしとる、○ンコ」 (すいません、下品で)
「してない!」
「いーや、してたね。きばってたもん。あっくさ!匂いまでしてきた!」
なんて言うから
それにまたギャ-ギャ-反論してたら (すいません、低レベルで)
車が止まったから、なんだ?と思ったら
もう、私のアパートに続く、道のそばまで着いてしまっていた。


そりゃ私は、彼とのバカ話は嫌いじゃないけど
デートの始まりの方ならいざ知らず
この車を降りたら、また一週間近く会えないのに

愛のささやきとまではいかなくても
なにも、最後の会話が○ンコじゃなくてもいいじゃないかと

思ってますます口を尖らせたら、突然キスされて
(ていうか、正直言うと、キスしてほしいから
 むくれたフリして、口を尖らせたってのもある)
そのまま抱きしめられて、ちょっとやらしいキスになっていって
腰をぐいぐい引き寄せるから、

もうしょうがないなあと思って、腰を浮かせて
運転席の方に身を預けるみたいにして、キスしてたら

彼の手が、私のおしりをパタパタはたいて
「○ンコはどこや、○ンコ、○ンコ」

結局、最後の会話は○ンコなのでした。 (すいません…)



アパートに帰ると、いつもすぐお風呂にお湯をはることにしている。

長風呂からあがって、髪をかわかしながら、ネットでさっきの歌詞調べたら
やっぱり、彼の歌ったような、私の感じたような
本来は、そんな歌ではなかった。

それでもこの曲は、私の中で
今日のことを思い出す、思い出の一曲に、またなったんだろう。


髪がかわききった頃、いつも通り、彼から電話がきた。
「お風呂あがったよ」って。

私はお風呂が大好きで、本を読んだりしながら、ゆっくり入るけど
彼はカラスの行水派だから
彼が私を送ってくれた日の、お風呂からあがるタイミングは、いつも同じ。

さっぱりした体でベッドに寝転んで、電話越し、彼と話す。

さっき別れてから2時間も経っていないのに、さっきとは全然違う空気感で。

肌も髪もさらさら。
体はほんのり、温かくて。
冷たいシーツがきもちいい。

一日中話した後だというのに、次から次へと話題は途切れず
気付くと長く話してしまう。
少しずつ少しずつ、眠けに支配されていきながら。

すごく贅沢で、幸せな時間。
大好きな時間。


最初の頃、彼は
家に着いたらすぐ「着いたよ」って電話してきた。
だけど、いつの間にか、こんなふうになった。約束してるわけじゃないけど。


今日印刷した写真を、枕の上に並べて見ながら
「写真ちゃんとしまった?」ってきいたら
「今、見てるとこー」って言われた。

自分のことは棚に上げて
「ちゃんと、しまいなよー。出しっぱなしにして、ぐちゃぐちゃにしないでね」
って言ったら
「うん、しまう、しまう。宙ちゃんがヤキモチやく箱にしまうー」
って、からかうみたいに笑った。

2001年12月26日の日記に書いた箱のことです。
いつのまにか、こんな風に話せるようになったんだなあって、思った。

ふわふわした気持ちで、やっぱりなんだか嬉しかった。



また、会えない一週間がはじまる。
ああ、一緒に住みたい。

一緒に住んだら、こんな幸せな時間は、なくなってしまうんだろうか。


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