まだ沈丁花の香りが残る路地をゆくと、レンギョウが黄色の、続いてボケが桃色の花を咲かせていた。目を上げると遠くに枝先が染まりだした桜もみえる。さらに歩いていくとコンクリートの門柱の上に白いプラスチックの小さな鉢が置いてあり、高さ10センチほどの桜が満開になっていた。(部屋にいたんだな)と、立ち止まり心の中で呟く。(もう散るんだものな。まだ早いけれど、そうだなこんな南風の中ならいいな)と、そこまで思いめぐらしたとき、脚はもう踏み出されていた。言葉を踏みにじるようにして。