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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年08月01日(木)
はじめに。

実に、思いつき体当たり、行き当たってバッタリな信井のやりそうなことですね。

ということで、始まりました「鈴木君のシュールな一日」。

テーマは『適当』(笑)

一応、『創作日誌』の部類に入りますか?
わけのわからなさは、信井のサイト中ピカイチでしょう。
とにかく、何も考えずにバカなことを書きたかったのです。
更新ペースは・・・それこそ、行き当たりばったりで。



とりあえずの内容は以下の通りです。

 宇宙人・異世界人・異次元人が日常的に出没するという「田中安田」市。
 実にほのぼのでシュールなその町に住む、鈴木君(高校二年生)の一日とは。

ええ。
信井、何も考えてません(笑)


設定は以下の通り。

◎鈴木君
 ごくあたりまえに「歩くミステリースポット」であることが日常な『普通の高校二年生』(自己申告)。
 いかなる時も『沈着冷静』がウリの彼だが、それが本当の沈着冷静なのか、ただの鈍感大王なのかは意見の別れるところである。

◎佐藤君
 鈴木君のクラスメートその1。
 幼馴染みの言動には既に免疫あり。
 長年の経験から傍観に徹する道を選んだ模様。

◎山本君
 鈴木君のクラスメートその2。中学からの腐れ縁。
 日々バイトに勤しむ勤労少年だが、時として摩訶不思議なバイトに励んでいることもあり。

◎高橋さん
 鈴木君のクラスメートその3。
 どうやら委員長らしい。
 ご愁傷様。

◎遠藤先輩
 佐藤君の部活の先輩。
 よくわからないが、自称『全てを超越している高校生』らしい。
 ちなみに、鈴木君は「帰宅部」兼「超常研」の名誉会員。


・・・ま、こんな感じで。
今適当に打ち込んだ程度の設定ですし。
ネタは思いつきのままに。
あるいは、国語辞典を適当に開いて目についた単語から。


ちなみに、深く考えて読むと損をしますので。
あしからず。



それよりも・・・・・・こんな『適当』がテーマなモノに金使うなよ(笑)



2002年08月24日(土)
とある朝。

 ある朝。
 佐藤は教室に入ってきた友人になにげなく視線を投げて――ひとつ瞬いた。
「よぅ」
「・・・うす」
 いつものように挨拶をかわし、そしておもむろに鈴木の背中を指差す。
「で、その背中のはなんだ」
「ああ。家を出て三本目の路地で遭遇してな。そのままついてきた。
 ――ちょっと座りにくいな」
 バフッと机の上に鞄を投げ、椅子を引きつつ淡々と返す鈴木少年の背中にあったのは、赤いランドセルだった。
 正確には、どうやら赤いランドセル形の宇宙人らしいが・・・。
「ふーん、またか」
 なにげなく相槌を打って――佐藤はある事実を思い出す。
「なぁ・・・そういや、お前ってバス通じゃなかったっけ?」
「ああ。今日はなんだか乗るのが楽だったぞ」
 平然と言ってのける鈴木少年。
 夏服の男子学生が、赤いランドセルを背負い涼しい顔をしてバスに乗り込んできたら・・・。
 今朝の鈴木に遭遇してしまった不運な一般乗客に、佐藤は心の中で静かに合掌したのであった。


 さて、翌朝。
「・・・なんだ、今日はもういないのか」
 登校してきた鈴木の背中を眺め、佐藤はつまらなさそうに呟いた。
「ああ。昨日の夜に迎えが来たんだ。どうやら迷子だったらしい」
「あっそ」
「さすがに一日あのままだと、背中が蒸れてたまらんかったからな。体育の時間にできることも限られるし。
 今日は身軽でいい。着替えも楽だ」
「ま、だろうな」
 ちなみに昨日、鈴木は赤いランドセル(型の宇宙人)を背負ったまま――教師陣の激しい戸惑いをものともせず――全科目に参加していた。さすがに、彼?を背負ったままでの着替えは無理だったため、体育の授業は制服で受けたのだが。
 赤いランドセルを背負った男子生徒がグラウンドでサッカーをする姿は、一種独特なものがあったことは確かだが、「鈴木だから」の一言で全ては片付いた。

「帰り際に記念撮影をしたんだ」
 噂の鈴木は、そう言いながら学生鞄からミニアルバムを取り出している。
 どうやら、知り合いの写真屋で現像してもらったらしい。
 ひょい、と覗き込んで佐藤は顔をしかめた。
「・・・・・・記念撮影ね」
「ちなみに、これが父親でこれが母親らしい。あとは船のクルーとのことだったが」
「区別付かねぇよ」
 写真に写っていたのは――極彩色のランドセルの群れだった。
 その中に埋もれるようにして、友人は平然とVサインなどをしている。
「ていうか、お前よく父親だの母親だの判ったな」
「親子愛をみたからな。感動の対面だった」
 思い出したようにそっと目頭を押さえる友人の姿に、付き合いの長さと相互理解は決して比例しないことを、佐藤は改めてシミジミと感じていたのであった。



2002年08月25日(日)
恩返し。

「うわっ!なんだその鞄!」
「? どうした」

 登校してきた鈴木が机の上に置いた学生鞄を目にするなり、佐藤は思わず声を上げた。
 自分の鞄を指差しながら逃げ腰の幼馴染みに、鈴木は驚愕の対象となっているらしきソレを眺める。
 今朝の彼の学生鞄は全体に青光りしていた。
 そうまるで――魚のうろこで覆われているように。
 否、『まるで』ではなくそのまんまなのだが。

「なんだそりゃ?!」
「ああ、これか。
 実はな。昨日の下校途中――行き倒れてる鯖に遭遇してな」
「・・・サバ?」
「魚の鯖だ。ひれで歩いて言語を解する鯖だったんだが、どうやら異世界人だったらしい」
「・・・まぁ、そういうヤツで宇宙人でないならソウだろうな」
「それで、空腹のあまり行き倒れてたらしくてな。幸い、オフクロの言い付けで買い物に寄らされた帰りだったから、持ち合わせのものを食わせたら大層喜んでくれて」
「それで?」
「礼だと言って、自分のウロコを一枚剥いで、持ってた俺の学生鞄に貼ってくれたんだ」
「・・・一枚?」
「そうなんだ。その時は一枚きりだったんだが――朝起きたら、こうなってた」
 そう言って、コレコレと机の上の鞄を指差す。

 ・・・全体にびっしりと増殖したらしきウロコ。
 まるで、最初からそう作られているかのように、規則正しく隙間なく。

「さすが異世界人の鯖だな。全然魚臭くないんだ」
「いや、問題はそこじゃねぇ」

 結局その鞄は、少々マッドがかっていると噂の生物部顧問に拉致られて、昼休みには普通の黒い学生鞄に戻って、鈴木の手に返ってきたのだが。
 個性的で気に入っていたのに、と残念そうなクラスメートに、佐藤はふとあることを尋ねた。

「そういや、お前そいつになに食わせたんだ?」
「味噌煮の缶詰だ」
「・・・何の」
「手元には、二種類あったんだがな。
 ところが、イワシはオフクロのリクエストで買って帰ってたヤツだったんで、止むを得ずサバの方を」
 ――待て。
「・・・共食いにならねぇのか?」
「美味かったと喜んでたし、別にいいんじゃないか?
 相手は異世界人なんだし・・・まぁ細かいことは気にするな」
「・・・・・・ま、喜んでたならいいけどな」
 後になって『共食いさせられた』と相手が怒鳴り込んで来るまでは、佐藤はこの件に関してそのままキレイサッパリと忘れることに決めた。

 ――今日も何事もない平和な一日だった。



2002年08月26日(月)
転校生。

 その日やって来た転校生は――謎に満ちていた。
「なぁ。カンペキ顔半分隠れてるけど、邪魔じゃねぇか?
 その前髪」
「え? ええええええ、えーと、そんなことはないよ、うん」
「というか、俺は、同じく前髪に埋もれてしまってるメガネの方が気になるが」
「ああ気にしなくていいよ。大丈夫だよ全然平気だから、うん」

 ――気にするだろ普通。

 昼休みの屋上。
 ツッコミを入れたい気持ちをグッとこらえ・・・ているのは佐藤だけで、鈴木は「個性の違いだな」という一言で全てを終わらせてしまう。
「おおらかなんだね鈴木君は」
 感動したように呟く小林と言う転校生は、感極まったようにメガネを外し、ポケットからハンカチを取り出してそのまま前髪に手を突っ込み・・・もとい、取り出したハンカチで目元を押さえている。
 蛍光ピンクの地に緑の提灯が乱舞するハンカチだった。

 完全に季節を外してやってきた彼は、当然のごとく転校してきた理由を問われ、失神しそうな表情でしばらく絶句したあげく
「一身上の都合です」
 と、消え入りそうに細い声で答えたことから、朝一から一躍「時の人」となっていた。
 他にも、池の鯉に向かって涙ながらに土下座をして謝っていただの、何回生だかの卒業記念の銅像――なんのへんてつもないグ○コの像もどきである――を目にするなり、絹を裂くような悲鳴を上げてぶっ倒れただの、二年以上前から放置されているらしき古い雨傘を抱き、げた箱に向かって30分にわたりガンくれていただの・・・目撃証言は半日だけで両の手に余るほどであった。
 『謎』の転校生である。
 こんなクラスもういやだ、と遠い目をして呟いていた委員長の高橋女史を思い出しつつ、佐藤はなにげなく件の転校生に目をやった。
 その時である。

 ゴオッ!!

「わわわっ?!」
 時ならぬ突風が彼らの髪を攫い、乱した。
 勿論、転校生の謎のヴェール(前髪)も一緒に――。

 ぴきっ。

「び、びびびびっくりした・・・」
 慌てて髪を押さえる小林。
 ぱぱぱっと前髪を整え、外したままだったメガネもかけ直す。
「あ、あれ?あれあれ?」
 自分の顔を見つめたままの鈴木と、それプラス凍りついたままの佐藤とを見比べ口元を手で覆った。
「もしかして・・・?!」
「お前それ――」
「あの鈴木君佐藤君・・・」
 なにかを言いさした鈴木を遮り、小林は二人の顔を見比べながら縋るような細い声で言った。

「今見たこと・・・誰にも言わないでくれるかな、もし誰かに話したら・・・
  呪うからね
 懇切丁寧にじっくりとっくり時間をかけて念入りに」

 そうして、きゃっ恥かしい、と顔を覆う小林。
「わかった言わない。小林は恥かしがり屋なんだな」
「うん・・・人見知りも激しいんだ」
「そうか、それは大変だな」

 ほのぼのとした友情空気を醸し出す二人の会話を遠く聞きつつ、佐藤は『呪い』と『人見知り』の関係についてしばし熟考したのであった。



2002年08月27日(火)
速達。

 体育の授業を終え一番に教室へ戻ってきた佐藤が、緊張の面持ちで友人たちを振り返った。
「・・・誰か中にいるぜ」
「今日、欠席者はいなかっただはずだが」
「ままままま、まさか、泥棒とか?」
「あ゛ーっ、ボクの全財産がピーンチ!」
 突然頭を抱え叫んだ山本の声に驚いたように、室内の人影がはっとした様子で身を翻す。
 内心迂闊すぎるクラスメートを短く罵りながら、佐藤はガラッと一気に扉を開いた。
「テメェ逃がすかよ! 待ちやが・・・」
 が、彼らが目にしたのは、何かが窓から出てゆく最後の瞬間――視界を影がかすめてゆくその瞬間の残像だけであった。
「・・・」
「くそ、逃げたか」
 眉をひそめて呟く鈴木。
 そこへ他のクラスメートたちも戻ってくる。
「なんだ、どうしたんだ」
「なんかねー、泥棒が入ったかもしれないって!あああ!!無事であってくれボクの新渡戸さん!!」
 思い出したように大声を上げながら荷物を確認しに走る山本の姿に、他のクラスメートたちも慌てて自分の荷物を調べ始めた。
「さて、俺も調べておかないと・・・佐藤どうした」
「・・・なんで誰も指摘しないんだろうな。まぁ今更いいけど」
 ぼそりと呟いて、佐藤も自分の席へと足を向けた。
 言いかけた言葉は飲み込んで。

 ここ、三階なんだけど――。



「で、結局、誰の荷物にも手は付けられてなかったてことか」
 更衣室から戻ってきた女生徒たちも、男子から話を聞いて荷物の確認を行ったのだが・・・結局全員に異常はなし。
「気のせいだったんじゃないのぉ?」
「でもさイインチョー。ボクら全員それを見てるんだよねーただの気のせいにしてはおかしーんじゃないかと・・・」
「だまらっしゃい」
 高橋女史に凄まれ、山本はうひゃーん、と鈴木の背後に隠れた。
「高橋。山本の言い分に俺も賛成だ。それに――」
「それに? なに、鈴木君」
「異常がないわけではないんだ。増えてるから
 ・・・増える?
「これだ」
 顔を見合わせたクラスメートたちに向かって鈴木が指差したのは、机の上の小さい物体だった。
「・・・なにそれ」
「知らん」
「知らんって・・・鈴木君あの・・・」
 クラスの全員が遠巻きにしてそれを眺めていた。
 今、彼らにとって悪夢の温床となりつつあるのは、机の上に乗っている小さな箱であった。
 遠くから見ただけでは、ただの荷造りされた両の手サイズのダンボールに見えないことはない。
 が、しかし。
 はっきり言おう。

 ――組み合せが悪すぎる。

 かたや、正体不明の謎の箱。
 かたや、歩くミステリースポット『二年五組の鈴木』。

 今までの経験に裏打ちされた予想が、そう簡単に裏切られるはずはなかった。
「なーなー、なんか書いてあるぞー」
「えーとえーと・・・そ、速達、ですか?」
「速達だな。開けてみよう」
 待て!
 善良なクラスメートたちが止める間もなく、躊躇いという言葉の持ち合わせがなかったらしい鈴木はバリッと一気にフタを剥いだ。
 次の瞬間。

『ギャーーーッ!!!』

 断末魔の叫びが二年五組の教室を埋め尽くした。
 次の授業のためにやってきた教師たちや、なんだなんだ、と声に驚いて様子を見に来た他クラスの生徒にまでその叫びが波及していく。
 フタを開けたまま目を丸くしている鈴木の手元――禁断の箱から出現したのは、魔の節足動物であった。
 しかも、時を経るごとにその数が確実に増加している。
 鈴木の持っている小箱から尽きることなく姿を現すソレは、カサカサと総毛立つ音を立てながら床を歩き回っていた。
 そしてトドメのように――開封した人間と同じ顔を持っていた

「いやーっ! なにこれなにこれ、なんなのよーっ!!」
 高橋女史は他の生徒たちと同じく椅子の上に飛び上がったまま、パニックに陥ったように手近な首根っこを掴んでガクガクと揺さぶっている。
 揺さぶられている佐藤は、マジマジと自分の手元を観察している幼馴染みに叫んだ。
「なにやってんだ、早くそれのフタを閉めろ!」
「いや、しかしオモシ――」
「とっとと閉めやがれ!!」
 幼馴染みの絶叫に鈴木は残念そうに軽く眉を上げ、しかし素直にフタを閉める。

 パコ。

 と、同時に、床の上を歩き回っていた無数の黒い節足動物が一斉に姿を消した。
 フ…ッと、突然かき消えたそれらに、生徒たちは文字通り悪夢から覚めたばかりのように呆然と立ち尽くしている。
 経験値の違いからか、いちはやく硬直から解けた佐藤が呟く。
「・・・今のは一体」
 その時だった。

「あ・・・やっぱり間違ってましたか・・・」

 陰気な声が低く教室に響いた。
「間違い?」
 するすると滑るように自分に近付いてくる人物に、鈴木は短く問い掛けた。
「何の間違いなんだ?」
「配送ミスのようです・・・どうも失礼しました・・・」
 言いながら手を出す見慣れない男に、鈴木は三度瞬いて――男に箱を渡す。
「気を付けてくれよ」
「・・・はい・・・皆様、お騒がせ致しました・・・」
 男は一礼すると、あっけにとられたままの生徒たちの間をすり抜けてあっという間に姿を消した。
 ――窓から。
「・・・だから、ここ三階・・・。ていうか、あの箱あっけなく渡してたけど、お前アレが誰だか知ってるのか?」
「いいや」
 どきっぱり。
「んなことだろうとは思ったけどよ・・・」
「ところで――今の箱なんだったんだろうな。何だと思う?」
「俺に訊くな。ああくそ疲れた・・・俺は寝るぞ」
 高らかに宣言した佐藤の声に、他の生徒たちも同調して頷く。
「・・・よし。寝るか」
 疲れ果てたように呟いた教師の一言で、二年五組その日最後の授業は、今学期幾度目かの「昼寝」の時間へと姿を変えたのであった。



2002年08月28日(水)
労働中。

「おはよー鈴木君!」

 休日朝の八時半。
 習慣通りの時間に目が覚めた鈴木は、いささかのもったいなさも覚えながらベランダへ出たところ――そこにいた級友からの朝の挨拶を受けて、しばらく黙り込んだ。
「あれ?起きてるように見えるけどホントはまだ寝てるかな、おはよー!」
 夢の続きかと思ったが、爽やかな朝の空気にそぐわないこの騒々しさは現実のようだ。
「ああ、おはよう」
「なんだやっぱり起きてたのかボクてっきりまだ寝てるのかとアハハハハ」
 常人には、朝一からこのテンションは少々クるものがある。
 が、鈴木はその範疇に含まれないらしい。
「いや、半分寝てたかもな」
「あ、そーなんだ」
 けろりと返した友人に、ニコニコ笑いながら山本は「やだなもー」相手の肩をポンと叩いた。
「ところでさ鈴木君、頼みがあるんだけど」
「頼み?」
 唐突な申し出に、さすがの鈴木も軽く眉をひそめた。
「うん、実はボク今バイト中なんだけどちょっとばかり協力して欲しいんだよねー」
 ベランダからの級友宅襲撃もバイトの一環なのか。
「協力・・・なにをだ」
「あのさーちょっと部屋の中見せて欲しいんだー」
「誰に?」
「ボクのお客さん」
 すぱっと即答である。
「・・・客?」
「うん」
「ちなみに、なんのバイトなんだ?」
「ツアコン。知ってる?ツアーコンダクター」
 そのツアコンがヒトのベランダで何してる。
 というよりも、
「・・・ツアー?」
「うん、それでさツアコンてタイムテーブルとかあって時間制限とか結構キツイんだけどお願い事の答えどうなのかなーて。ちゃんと達成出来ないとバイト代に響くんだけどねー」
 それは脅迫とは言わないか。
「まぁ、いいけどな」
 いつもと同じ笑顔の山本に、鈴木は溜め息をついて、
「学食か弁当五食分」
 交渉を開始する。
「えーっ!二食にしてよー」
「じゃ三食分。これ以上はまからない」
「うーんうーんうーん、まいっかー三日分じゃないしー」
「そういうことだ」
 じゃ交渉成立ー、と山本はくるっと振り返り、愛想を撒き散らしながらベランダの外へ向かって声を上げた。

「では皆さーん。見学許可がとれました。
 ここが現役男子高校生の生プライベートルームでーす!」

 どういうアオリだ。
 しかし呆れる間もなく、その山本の声と同時にベランダの手すりの影からフヨフヨと何かが現れる。
「・・・・・・UFO?」
 イラストやマンガに出てくるようなメルヘンチックな形の円盤が、さっさと靴を脱いで鈴木の部屋へ突撃する山本の後をついていく。
 ひとつ。
 またひとつ。
「・・・」
 ふと手すりの裏を覗き込んだ鈴木が目にしたのは、ズラズラと連なって順番待ちをしているメルヘン円盤の群れであった。
 大きさはカレー皿程度だが、20強も数が集うとさすがに目立つ。
 たまたま通りがかったらしいどこぞのお父さんが、犬のリードを握ったままポカンとしてこちらを見上げていた。
 マンションの12階ともなれば、もっと遠くからでも目撃できるだろう。
 『鈴木伝説』に新たな一ページが加えられることになるらしい――。
「・・・俺は別に、そのために積極的な行動をしている、というわけでもないんだがな」

「はーい、皆さん見学時間は15分です。むやみにビーム砲を撃たない様にご注意くださーい。あ、お客様ー見学場所からの備品持ち帰りは厳禁ですよー」
 はりきるツアコンの声が、朝の空気に鳴り響いていた。



「ふーん、あの話はそういうことだったのか」
「ああ、そういうことなんだ」
 黙々と報酬のサンドイッチをぱくつきながら、自分の言葉に頷く幼馴染みを眺めて佐藤は溜め息をつく。
「山本ー。お前そういうことなら、自分の部屋でも見せときゃいいだろう」
「えーっ、だってボクの部屋そんなに広くないしー弟と一緒の部屋だから条件満たしてなかったしー。それにお客さんからの突然のリクエストだからボクの部屋片付いてなかったしー」
「・・・あーそーかよ」
 佐藤はげんなりとして、クリームコロッケに箸をつきさした。
「それはそうと、どうやってあそこまで上がってきたんだ?」
 前日の朝から抱いていた疑問に、山本はにひゃっと笑って指を立てる。
「それはー企業秘密でーっす! っていっぺん使ってみたかったんだよねー!」
「うーん、やはりどんな仕事場にも守秘義務というのはあるか」
「・・・ていうか、どこからそんな仕事拾って来るんだよ」
 そんなごく当たり前の疑問は、この顔ぶれの中では忘れ去られるのが常であり、今日も例外ではなかったのである。



2002年08月29日(木)
行き先不明。

・・・見ぃ〜たぁ〜なぁ〜〜

 ある日、扉を開けると、そこにいた逆さテルテル坊主に凄まれてしまった。
 鈴木はごく当たり前のように、
「失礼した」
 謝罪し扉を閉める。

 ガチャリ

「・・・なぁ、今逆さテルテルがノーマルテルテルの首絞めて・・・」
「何を言ってるんだ。テルテル坊主の首は元々締まっているだろう?」
「いや、ありゃ間違いなくロープで絞めてるところ・・・」
「じゃあ、作ってる最中だったんだろう」
「なんか、断末魔の痙攣ぽく・・・」

∞・∞・∞・∞・∞

 ガチャ!

 ――ガガガガガガ・・・!!

『▲◎※*●∞#×☆!!』
「何ボーッとしてんだ、危ねぇだろうが!」

 ガチャリ

 ゼェゼェ・・・
「タコがマシンガン乱射する時は、便利そうだよな。一度に幾つも持てるし同時に撃てる・・・なるほど」
「今見えた光景に納得してんじゃねぇ」
 息を切らしながら、佐藤はげんなりとへたり込みそうになった。

∞・∞・∞・∞・∞

 ガチャ!

「・・・なぁ、葬式だぞ。お悔やみ言わなくて――」
「いいんだよ。スルメの葬式なんざ。とっくにミイラだろうが」
「それはそうだな」

∞・∞・∞・∞・∞

 ガチャ!

 ウィーンガシャン、ウィーンガシャン・・・

「なるほど。日本酒はこうして瓶詰めされているんだな。見事なオートメーション――」
「感心して眺めてんじゃねぇ。どこの工場で信楽焼きのタヌキが労働に勤しんでるってんだ」

∞・∞・∞・∞・∞

 ガチャ!

『今の心境をどうぞ!』
『何か一言お願いします!』
「間に合ってる!」

 ガチャリ

 後ろから手を伸ばした佐藤が無理矢理扉を閉めると、鈴木が感心したように口を開いた。
「国語辞典の集団に突撃インタビューかまされたのは初めてだ」
「俺もだ。
 ていうか、いつになったら俺たちいつもの視聴覚教室に入れるんだ・・・?」
「さぁな」
 時折遭遇する現象に行き当たり、佐藤は既に諦めモードだった。
「・・・あと何回で決着が付くんだろうな」
「確か、今までの最高は十一回くらいだったか?」
「細かくカウントして、しかも覚えてるんじゃねぇ」