きまぐれがき
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2003年05月23日(金) 隣の席から

夕方の電車は学生でいっぱい。
なんだか懐かしい、埃と汗の入り混じった臭いが充満していた
部活の部屋を思い出しながら、座席でぼんやりと本の頁を
繰っていると、どうも隣の席からの視線を感じてしかたがない。

頭を動かさずそっと横目で見てみる。
さっきまで、私の肩にほとんど頭をもたせ掛けるようにして居眠り
をしていた女子高生が、すっかり目覚めたらしい。
もう私の肩に頭は乗っていないが、こちらの手元の本をひかえめに...
どころか、堂々と見ている。

「いいおばさんが、若い子の本なんか見て〜」と思っているのだ。

この本は、友人と待ち合わせの時間よりも早く目的地に着いて
しまった為、通りかかった本屋で時間つぶしに買ったばかりだ。
同じシリーズの本を持っていたので、小ぶりでカラフルな装訂が
すぐ目に入り、内容をよく見もしないで買ったのだ。

パリに住むクリエーターたちのアイデァが一杯詰まっているアトリエ
の写真が満載で、出来上がった作品を見るよりも仕事場を覗くのが
好きな私には、見ているだけで楽しくなるうってつけの本だった。

女子高生の見やすいように、本の向きをちょっとずらせてあげる。
それにしても、この本のどこがそんなに気になるのだろう。
一心に見入っている様子が伝わってくる。

どうしよう、私は次の駅で降りなければならないの......
「続きが見たかったら本屋さんで探してみてね....」の言葉にかえて、
思いきって頁を閉じ、表紙のタイトルを読めるようにしてあげる。

すると女子高生は、本から目を離したのか、私に寄りかかっていた
身体の重心をたてなおしたので、私の身体はいっきに軽くなり
涼しくなった。

ホームを歩きながら、通り過ぎて行く電車のさっきの座席を見ると、
あの女子高生は前かがみになって頭をガクンと下げ、もう眠りこけていた。





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