きまぐれがき
目次|past|will
「大丈夫よ、行ける行ける」と母が言うので、今日は往診をして いただかずに、病院へ行くことにした。
まずは私自身の身支度をすませて母の部屋をのぞくと、母はすでに 着替えをすませ、お気に入りでもあるローズ色の口紅をひき、 指輪もはめて待っているのだった。
「あたくし、横になっている時でも本を読んだりしているのですが、 今はなにもしないで、ただ横になっていたいだけです」と弱々しい 声で、往診にみえたドクターに話していた2週間前に比べると、 表面上はかなり回復しているようにみえるのだが、検査数値がまだ まだ正常値には程遠く、多分入院治療となるだろう。
希望と不安の高波が交互に押し寄せてくる。 しぶきをかぶりながら私は、引いていく波にぐらつく足元を取られ ないように、なんとか踏ん張っているといったところか。
母にとっては久しぶりに出る庭。 ガレージの車まで歩く途中、青い花の前で立ち止まって「この青は、 大好きな青だわ」と言う。 うんそうだね。青い花が好きだったね。 都忘れ、忘れな草、ききょう、リンドウ、イソトマ、ブルーデージー、 ブルースター、クレマチス、アメリカンブルー、デルフィニウム...... 思いつく限りの青い花で、今すぐにこの庭を埋めつくしてあげたい。
|