きまぐれがき
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キュリオケースの室内灯を交換するのに邪魔な器をとり出そう として、手を滑らせ割ってしまった。
かけらを集めて、購入者である小まめの許しを請う。 「ほんとだ」 この一言に、拍子抜けする。
かけらといえばもう一つ、引き出しの奥でプチプチパッキンに 包まれて、眠っているのがある。
ここに寄らなければ京都に行った気がしないとばかりに、必ず 立ち寄る骨董通り。 なかでも「てっさい堂」はとくに好きで、店内に足を踏み入れ たが最後、店主にとっては迷惑なことだろうが、私は帰りたく ならない。
染付けに魅せられ、京都に出かけるたびにふえてきた古伊万里。 その中の一枚を、それは古伊万里ほど古いものではないけれど、 春先にやっぱり手を滑らせて割ったのだ。
自分で買った磁器なので、誰かに許しを請う必要もないだろうが、 この磁器の100余年に亘る長い旅路をここで終わらせてしまった ことと、これを作った名も知れぬ陶工にたいしては申し訳ない 気持ちだ。でも多分大量生産品だ。
だけど、あの通りの建ち並ぶ骨董店をめぐって、どれか一つの 染付けを選ぶことに心をときめかせ、手にとっては戻し、その繰り 返しの中からやっと私のものとなった磁器だけに、諦めがつかず 引き出しに忍ばせておいたのだった。
久しぶりにかけらを出して眺めてみる。
未練がましいと言われようが何といわれようが、 やっぱり捨てられないよぉ。
「太陽の雫」で主人公のハンガリーユダヤ系の一族も、磁器のかけら を捨てたりしなかった。 この映画は3世代に亘る物語(レイフ・ファインズ!愛!)なのだが、 現代を生きる若者によって過去を清算するかのように、古い家具たち と一緒にかけらが捨てられるまで、そのブルーオニオンが効果的に 使われていた。
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