罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
「あの時、終わらせるのを止めちゃった事、 終わらなかった事、後悔してる?」
…後悔も何も、覚えていない。
「いつも何も返せなくって…」
…返せるものが無いのは、 返しきれていないと思うのは、俺の方なのに。
…そんな悲しい事を言わないでよ。
俺達が一度死に掛けたとき(殺しても死なない気はするけど)、 世話を焼いてくれたのが彼だった。
俺はその時完全に殻に閉じこもったままで覚えていないけど、 兄さん達の話からすると相当迷惑をかけたに違いない。
お互いの痛みを普通よりもダイレクトに…自分の痛みに感じるから、 何をやったかも大体解ってるんだろう。
心も身体も不安定で、 いつどうなってもおかしくないと自分の状態を認識してる。 だから、返せるうちに出来る事はやっておきたいって、生きてる。
昔は、いつ俺が『壊れて』しまうか解らなかったからこそ、 何もしたくなかったし、深い関わりを嫌った。
深い関わりを嫌っているスタンスは変わらないけど、 何かをしようとする事を教えてくれたのは彼だった。
彼だって俺と状況は変わらない。 下手を打てば何時『壊れる』か解らない。
それでも彼は夢を追い続けてる。
高い確率で早すぎる『断絶』が訪れる事を理解した上で。
俺は何時『終わって』もいいように生きてる。 でも、彼にはそんなに早く終わって欲しくない。 多分、俺達を助けてくれた時に彼が思っていた様に。
そして、俺が『終わった』からといって悲しんで欲しくない。 『終わった』として、俺は満足に生きてきたはずだから。 時々言葉の端々にそう漏らすのだが、彼は悲しい顔をする。 優し過ぎだ。
彼は生死のシステムを線と点では表記しないのだろう。 それが円にしろ孤独な線にしろ、 終止符が打たれればそれは彼にとって何かの終焉なのだろうか。
その終止符や断音符はきっと彼の五線譜に凄まじい不協和音を鳴らすのか。
一つの曲が終わりを告げても、 世界には他の曲が鳴り続けているだろう。 それは終わってしまった曲に殆ど干渉などされずに続き、終わる。 それでも彼は干渉されっぱなしで、干渉しまくって演奏する。 今までも、恐らくこれからも。 その演奏を少しでも聴いていたいから俺はまだ終止符を打たないでいる。 好き勝手に、やりたい事をするだろう。 多分勝手に終わるだろう。
ただ、その終止符が彼に悪い干渉を与えないことだけを祈って、 僕は終わりと始まりを歌い続ける。
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