無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2005年08月23日(火) オトナもコドモも/『彼氏彼女の事情』21巻(完結/津田雅美)

 夏映画の興行収入予測が概ね出揃ったようで、1位は『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』で、最終的に110億円前後になりそうだとか。もっともこれは『エピソード1 ファントム・メナス』を上回るのはちょっと難しそうだということで、完結編だというのに客の伸びがイマイチだったのは、やはり1、2、3、通した映画の出来がまあアレだったせいがあるんじゃないのかな。
 ノベライズ版を読んで、毎回思うことだけれど、『スター・ウォーズ』シリーズは小説の方がよっぽど人物描写が濃密でキャラクター心理が深く心に迫ってくるように感じてしまう。要するに映画の方は役者の演技力が不足しているということなのである。もちろんそれを引き出せない監督の演出力の方により問題があることは論を待たない。悪役好きの私としては、なんでドゥークー伯爵やパルパティーン評議委員長をあんな単細胞な深みのないキャラクター(あれじゃせいぜい中ボスレベルだ)に演出してくれたかと歯噛みする思いだ。無駄アクションシーンも退屈さを増すばかりだし、全シリーズを通して見られた殺陣がダース・モールとCGヨーダだけってのはあまりにレベルが低すぎるんだが、もともと殺陣の良し悪しなんて分かるわきゃねえアメ公に期待する方が間違いってことかね。
 2位は『宇宙戦争』だが、1位に拮抗するほどの成績ではなく、60億円程度になりそうだと言う。『NEWTYPE』の今月号で、ゆうきまさみが本作を絶賛していたのだが、世間の悪評紛々たる状況を見て「オレの目はフシアナなのか!?」と頭を抱えていた。まあフシアナなんではないですかね(笑)。いや、最後にあっさり火星人(とは全く明記されてないがあえてそう書く)が細菌でやられちゃうのが拍子抜け、という批評については「原作がそうなんだから」という反論もあるようだが、アレは驕り高ぶった人間に対する文明批評としての寓意なんだからね。それを現代に生かすための工夫ができていないと言うか、原作の精神を全く正反対に演出しちゃってると言うか、その点でやっぱりマトモな評価は下せないんである。
 ハリウッドの馬鹿映画が1位、2位だってのはまあしゃあないことではある。もともとヒットする映画の最大要素は、馬鹿馬鹿しさにあるからね。ただ、もいっちょ突き抜けてない中途半端さが見ていてどうにもイラつくんだけどさ。
 3位は定番『ポケモン』の40億円、もちろん例年成績は落ち続けているのだけれど、それでもこれだけ稼いでいるというのはさすがだ。なかなかしげが付き合ってくれないのでテレビで後追いで見ることしかできないけれども、そこそこな出来ではある。アニメファンも中高生になるとこういう児童アニメを馬鹿にするようになっちゃうけど、そういう姿勢がアニメファンを視野狭窄に陥らせてる一因なんだよね。
 4位は『電車男』で、これは夏映画というよりは春からのロングラン映画。オタクの初恋っていう「特殊性」(笑)を除けば中身は他愛無い恋愛モノなんだけれど、それが35億円まで行っちゃうんだから、日本人の潜在的な「癒されたい」願望はそんなに根深いものになっちゃったのかといささか情けなくはなるね。
 5位は『亡国のイージス』で25〜30億円見当とか。渋い男臭い役者ばかりで、ミーハー人気はあまり望めない映画なので、これは純粋に作品内容の力だろう。枝葉末節の揚げ足取りや、原作との単純比較に過ぎない的外れな批判はあるけれども、夏映画では一番普通のエンタテインメントだった。
 6位は『マダガスカル』、『星になった少年』が20〜25億円あたり。相変わらず動物モノは強いってことかな。でも私がランディに会えるのはこの分だとテレビになりそうである。
 しかしもう何十年も「大人が見る映画が少なくなった」と嘆かれて久しいけれども、確かにこのラインナップの中で「大人」が心惹かれそうな映画が『イージス』くらいしかないってのは、残念なことである。でまた若い連中の中には「『イージス』面白いよ」って勧めたって、「難しそうで分かんない」とか言いやがるやつがいるんだよな。「知識」がなくたって、「映画を見る力」が素養として備わってれば、映画は大人も子供も関係なく面白く見られるんだよ。Yahooの映画評とか見てると、「この映画は大人向け、これは子供向け」と選別してるやつほどガキだって状況があって、しかもそんな批評とも言えない感情の垂れ流しがもうすっかり蔓延してしまっている。
 なんかもうね、日本人の映画鑑賞眼を底上げするためには、小中高校で週一回、必ず「映画の時間」とか設けて、国内外の名作映画を見せてくくらいのことをしなきゃならんのじゃないかと思うけれども、そういうことを考えるだけの度量がそもそも文部科学省にカケラもないってのが、一番の問題だと思うんだけれどもね。

 
 「GTF グレータートウキョウフェスティバル」の映画部門として、8月12日〜18日まで開催されていた「トーキョーシネマショー」の最終日に、最も優れた日本語タイトルのつけられた作品を選ぶ「筑紫賞:ゴールデンタイトル・アワード」に、韓国映画の『箪笥』が選ばれたというニュース。
 審査委員長の筑紫哲也は、「『海を飛ぶ夢』か『北の零年』にしようと思っていたが、若い学生に意見を聞いたところ、『箪笥』の評価が高かった。原題(「二人の姉妹の物語」)と全く異なる邦題のほうが、この作品の怖さが伝わる点を評価した」と選出理由を語っていたって言うんだけれど、筑紫さんはこの邦題が半村良の怪談小説『箪笥』から取られてるってことに気づいてないのかね? 配給会社は「いや、このタイトルはオリジナルでそんな短編なんて知らない」としらばっくれるかも知れないけれど、映画中、件の「箪笥」は重要アイテムの一つではあるけれども、映画全体のタイトルとしてふさわしいかどうかはちょっと疑問がある。だいたい怪談短編の傑作と言われ、白石加代子の『百物語』の演題の一つとしても語られている『箪笥』を知らないというのは不勉強と言われたって仕方がないのだ。
 多分、配給会社の方は知っててこの邦題を付けたのだろうけれど、筑紫哲也は全く知らなかったのに違いない。つか、周囲に誰もそのことを指摘してやるスタッフがいなかったということか。筑紫さんにどれだけのブレーンが付いているのかよく知らないのだけれど、こんな初歩的なミスを犯しているようじゃ、たかが知れていると思うのである。
 けど、タイトルはともかく、『箪笥』はよく出来た映画である。どこがよく出来ているかはネタバレになっちゃうので詳しくは言えないが、「ホラー」を期待して見ると全然違う映画なので、そこはちょっとご注意とだけ言っておこう。


 天野ミチヒロ『放送禁止映像大全』(三才ブックス)。
 どこぞからの抗議やら自主規制などで、再放送、再上映やソフト化がされなくなっている映像作品をなんと全263作品も紹介した日本映像史の裏面史とでも言うべき本。その分量の多さには驚きもするし、資料の収集、調査にはかなり苦労をしたものと思われる。その努力には素直に敬意を表したいとは思うのだが、どうしても先行する安藤健二の『封印作品の謎』の後追い企画のようにしか見えないところが本作の弱点ではある。
 確かに、これだけの作品量を『封印』はカバーはしていないが、各関係者への取材、インタビューを通じて、作品への抗議、告発の根拠のなさ、自主規制のいい加減さなどの熾烈な追求においては、『封印』の方が充実している。『放送禁止』の方はどうにも表面的な「なぞり」だけに終わっている感が強いのだ。
 一つには、天野ミチヒロ氏の映像作品に対する素養が著しく低いことも関係しているだろう。つか、一般的な常識もあまり持ち合わせてはいない人のようで、記事のあちこちに間違い、勘違い、情報の偏りが見受けられる。取材不足というより、常識を知らないための誤謬がやたら多いのだ。
 知識がオタク方面に偏っているだけならご愛嬌ですむのだが、『アパッチ野球軍』を紹介する項目で「アパッチ」という語句を「ネイティブアメリカンの蔑称」と記載していたのにはのけぞった。言うまでもなく、「アパッチ」というのはそのアメリカ原住民の一部族の名前であって蔑称でも何でもない。自主規制や用語規制の歪さを告発する本が、かえって差別的な誤解を広めるようなウソを書いてどうするのかね。
 まあ、一応、封印作品の資料としては使えるけれども、どうしてその作品が処分を受けることになったのか、その事実関係の検証は不十分なものが大半である。斜め読みするだけであまり内容を信用し過ぎないほうが無難だと思われる。


 マンガ、津田雅美『彼氏彼女の事情』21巻(完結/白泉社)。
 長編マンガはやはり終わってみなければ具体的な評価はしにくいものだけれど、まあ実質的な物語は全巻までで終わっている。最終巻は後日談も含めてキャラクターの整理編、と言った印象。
 正直な意見を言わせてもらえれば、有馬の心の闇の謎とやらをやたら長い間もったいぶって引いていたので、いったいどんなに悲惨な運命に弄ばれてきたのかと、ちょっとハラハラしながら読んでいたのだが、結末は「えっ? この程度のことでアンタ、自分のことを不幸って言うの? それ、人生舐めてない?」と言われても仕方がないくらいありふれたものであった。ジャリん子チエが聞いたら「不幸ぶってるんやないで、あほ」と一刀両断されてしまうだろう。
 まあ、このマンガの珍しいところは、少女マンガにしては一切ヤンキーや不良が出てこないという点にあった。まあ、これまでのマンガがあまりにも不良を美化したものばかりだったので(ヒーローはバイク野郎でたいていはバンドをやってたりする)、そういうものに対するカウンターカルチャーとして機能していたとは思うが、だからと言って、登場人物が殆ど全て一流の才能の持ち主ばかりというのは設定に無理がありまくりである。多分作者はヤンキーマンガが嫌いでこんなムチャクチャな設定で押し通してきたのだろうけれど、作者自身の「優等生臭さ」(本当に優等生かどうかは知らない)がそのままマンガの「臭さ」にも直結してしまっていたのが、マンガがどんどんつまんなくなっていった原因であるように思う。
 こういうとファンは怒るかも知れないけれど、登場人物を「天才」に設定したいんだったら、ちゃんと天才としての行動、実績をマンガの中で描かなきゃいけないわけね。口で言ってるだけでやることなすこと「凡人」だったら、ハッタリかますだけにしかならないの。有馬も雪野もごくフツーの人間なのになぜか「天才」ってことになってるのは作者が自分で「天才」を描けるだろうと思った自信の現れなんだろうけれども、SFとかファンタジーならともかく、基本的にリアルな学園ドラマでそれやっちゃうと、結果的に作者の「非才」を露呈することにしかならないのだね。現実に「天才」なんてそうそういるわきゃないのである。
 これで完結だと言うのに、あとがき等でアニメ化のことについて作者が全く触れていないのも何かワケアリだね。よっぽど賛否両論の騒ぎが鬱陶しかったものか。これは続きのアニメ化はまずないな。

2004年08月23日(月) 第10回広島国際アニメーションフェスティバルグランプリ……『頭山』!
2003年08月23日(土) 恋から自由であるということ/映画『呪怨2』
2001年08月23日(木) What is Okyuto?/『新暗行御史』(尹仁完・梁恵一)ほか
2000年08月23日(水) 若いって、イタいことなのよん/『エノケンと呼ばれた男』(井崎博之)ほか



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