無責任賛歌
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2005年08月29日(月) |
これが多分最後の高峰秀子インタビュー/『COMIC新現実』vol.6(大塚英志プロデュース) |
綾辻行人原作・佐々木倫子作画『月館の殺人』にすっかりハマッてしまったしげ、第2部が掲載されている『月刊IKKI』10月号を買いたいと言うので、博多駅の「GAMERS」で待ち合わせ。 マンガ雑誌は買い始めたらキリがないので、できるだけ買わないようにしている。週刊誌なんか、すぐに山と溜まっちゃうし。それでもちょっと珍しい雑誌が創刊されるとつい手に取って衝動買いしてしまうのだが、これがもう実に簡単に潰れるのだね。文字通りの「三号雑誌」。ここ何年かでも、『スパロボ大戦コミック』とか『ドラゴンHG』とか『トラマガ』とか『伝説マガジン』とか『手塚治虫マガジン』とか、タイトル聞いただけで(笑)が出るよねえ。もちろん、最初から続きそうにないと覚悟して買ってはいるんだけれど、本当に続かないのはやっぱり悲しい。連載が尻切れトンボのまま、どこかに行っちゃうのは特にね。伊藤伸平『楽勝!ハイパードール』、もう私が生きているうちに続きは読めないかもしれない(涙)。 『IKKI』も連載のラインナップを見るとすごく厳しそうなのである。『月館』が看板で、それに吉崎せいむ『金魚屋古書店』や鬼頭莫宏『ぼくらの』あたりが二番手というのはそりゃあもうオタクしか読まねえよというラインナップだ。私もしげも大好きなマンガなんだが、一般受けはしないやなあ。せめて、『月館』が完結するまでは続いてほしいものなんだけれど、ギリギリって感じかなあ。
で、その『月館の殺人』の第7回なのだけれど、上巻で謎だった部分がかなり解明されてはいるが、やっぱり佐々木さんの絵柄だとまだまだ裏があるように思えて、なかなか納得ができないのである。 何が凄いって、殺人事件が起きたにもかかわらず鉄道アイテムに狂喜するテッちゃん連中が少しもエゴイストに見えないのだ。ヒロインの空海が避難しても、その非難の方がおとぼけに見えてしまうのである。 いや、そもそも起きている殺人事件自体かウソっぽくて仕方がない。今回、またまた殺人事件が起きるのだが、多分、読者の大半が「こいつら、絶対死んでないよな」と思っているのではなかろうか。だから逆に、「本当に被害者が死んでいた(ヘンな日本語だが仕方がない)」という結末になったとしたら、そちらの方が凄い逆転どんでん返しの意外なトリックになるかもしれない。 でもそんなミステリー的な面白さなんかどうでもいい気分にさせてしまうのが、佐々木マンガの真骨頂なので、今回も「どのへんに龍を感じたんだろう」とかの描き文字セリフに笑っていればいいと思うのである。
近所に「東那珂食堂」という店が新しくオープンしていたので、夕食はそこで。 例の馬鹿高値な開店寿司屋の「大河ずし」のチェーン店なのだが、こちらはおかずを安く提供するセルフサービスの店。 ご飯、とろろ、豚肉の卵とじ、サーモンの刺身、イカ天、コロッケ、これだけ取ってきてちょうど千円。まあ、良心的な値段である。 しげは、できたての玉子焼きに、やっぱりサーモンの刺身、サバの味噌煮を取ってきたが、身をうまく毟れずに、殆ど半分以上を残してしまっていた。「あとあげる」と言うので遠慮なく貰う。本当は私に毟って食べさせてもらいたかったのかもしれないが、そういうコスイ策略には乗ってやらないのである。 以前、3号バイパス沿いに「めしや」という店があったのだが、ここはそこと同じセルフサービスでおかずを選べる方式だった。客は好きなだけおかずが取れるから便利なように見えるが、人気のないメニューはかなり残飯になってしまう。コストの面ではちょっと厳しいのがシロウト目にも分かり、案の定、「めしや」も数年で潰れた。こういう形式は私は好きなので、潰れないでほしいんだけどねえ。
帰宅して、『ブラック・ジャック』『名探偵コナン』の流れで『キスイヤ!』まで見ていたら、しげが突然「マクドナルド行きたい!」と叫んだ。 もう晩飯は食っているので、またハンバーガーを押し込むのは食いすぎではあるのだが、こういう「いきなり」はいつものしげの情緒不安定である。食わなきゃ心が落ち着かないのである。 自分で自分を落ち着かせる力がないのだから、これは食わせてやるしか仕方がないのだ。閉店まであと一時間しかなかったので、すっ飛んで近所のマクドナルドへ。 しげはお目当ての目玉焼き入りの何とかいうバーガーをチーズ抜きにしてもらって食べた。これで満足かと思ったら、まだ幾分心が満たされていない様子である。私が無口で相手をしてやらないでいるせいだろうが、こっちも丈夫なカラダじゃないんだから、平日からそうそう体力は使ってられないのである。夜中に一緒に外に出かけるだけで付き合いとしては充分なのだと思ってもらいたい。思ってもらわなければ困る。
大塚英志プロデュース『COMIC新現実』vol.6(角川書店)。 吾妻ひでおの現在を追いかけるのが半分以上の目的で買い続けてたのが、予定通り全六感で完結。最後の特集はあすなひろしだ。初期作品に加え、なんと未発表の遺稿『山頭火』の絵コンテを紹介している。一部ペンすら入っているその絵は、流麗さで知られたあすな氏のまさに円熟した美しさをた漂わせており、マンガ界は本当に屈指の逸材をなくしてしまったのだと痛感してしまう。 『新現実』は、忘れ去られようとしているマンガ家、忘れ去られかけているマンガの歴史を積極的に取り上げた。口では「マンガファン」を名乗りながら、かがみ♫あきらやあすなひろしの名も絵も知らぬような馬鹿が(若いやつらならばともかく、四十代でもそうだ!)蔓延している現在、『新現実』はよく頑張ったと思う。また、すぐに歴史の彼方に消えてしまうだろうが。 吾妻ひでおの『うつうつひでお日記』は次回以降、『コンプエース』に移籍するそうである。多分、そっちまでは買わないだろうな。相変わらずSFやマンガの批評は寸鉄人を刺す鋭さで舌を巻く。失踪したり自殺未遂したりしないでマンガ描いてほしい。切に。 『デスノート』について吾妻さんが、「心理劇として面白い。小畑の絵はうまいが一ノ関圭のような自在さはない」と語っている。かなりマンガを読みこんでいる人でないと、このセリフはとても理解できないだろう。一見、小畑健を貶しているように見えるが、少なくとも「天才・一ノ関圭と比較しうるマンガ家」と評価しているのである。小畑さんは吾妻さんのこの批評を真剣に受け止めて、マンガ家として精進すべきだ。しなければならない。これはそれくらい貴重な言葉なのである。
『キネマ旬報』9月上旬号。 表紙の「高峰秀子独占インタビュー」の文字に驚いた。 マジで心臓がバクバク音を立てて、気が遠くなるかと思った。映画界から完全に引退したあの高峰秀子である。成瀬巳喜男、木下恵介など日本映画を代表する名匠と組んで数々の名作を残してきたにもかかわらず、両監督亡きあと、あっさりと引退してしまった、あの高峰秀子である。 日本映画は高峰秀子に見切りを付けられてしまった。今は全ての取材を一切断って隠棲しているはずの彼女がどうして取材に応じたのか。 「仕掛人」は、『高峰秀子の捨てられない荷物』の著者で、高峰秀子を唯一「かあちゃん」と呼ぶことのできる「家族」の斎藤明美さんであった。彼女もまた、初めは世間の取材構成から高峰秀子を守る立場にいた。しかし、成瀬巳喜男の生誕百年に際して、あまりにも高峰秀子の存在が軽んじられていることに憤った。そして嫌がる高峰秀子をくどきかつ恫喝して、恐らくはこれが本当に最後になるだろう、インタビューの約束を取り付けたのである。 高峰秀子の口調は簡潔で一切の無駄がない。短い言葉は時として冷徹にすら聞こえ、誤解を生むこともあろう。しかしそんな誤解を少しも彼女は恐れていないのだ。どうでもいいと思っているのだ。 「ああ、成瀬さん死んだか。じゃ、私もこれで女優おしまい」 聞きようによっては、成瀬監督が亡くなったおかげで嫌だった女優をやめられると喜んでいるようにすら取れる言葉である。もちろんそんなことはなくて、成瀬監督がいたからこそ、高峰秀子は女優を続けてきたのだ。 病床の成瀬監督が、高峰秀子に「あれも撮らなくちゃね」と言い残して死んだ。「あれ」とは、成瀬監督が撮りたがっていた、「白バックの映画」である。役者の演技だけを見せるための映画だ。その主演に高峰秀子を使いたがっていたのだ。 こういう監督と出会っていて、それでその監督ともう二度と出会えなくなれば、「女優おしまい」にもなるだろう。それ以上、高峯秀子の心理を詮索する必要はない。 高峰秀子は森雅之が映画界から離れて行った理由についても語る。『浮雲』は高峰秀子の代表作として、日本(いや、世界でも)映画史上に残る名作の一つとしても高い評価を受けた。しかし、森雅之には殆ど何の賞ももたらさなかったのだ。成瀬監督も高峰秀子も、森雅之がいたからこそ『浮雲』は成功していたと確信していたのに。 森雅之は映画出演を減らして行き、舞台に移って行く。そういう役者が多いことが、日本映画界の役者に対する扱い方のいい加減さを証明していると思う。
斎藤さんが、「高峰秀子に語らせたい」と思った気持ち、悔しさは、切ないくらいに伝わってくる。しかし、斎藤さんの悔しさを受け止められる人間がこの現代にどれだけいるだろうか。 現代人はかつて日本を築き上げてきた人々に対する敬意も愛情も全て失ってしまっている。そんな現代に高峰秀子が自ら関わっていくことなどありえないではないか。高峰秀子に「(日本映画史に)興味ない」などと言わせるようにしてしまったのはどこの誰か。 「映画ファン」と名乗りながら、日に一本の映画も見ない、「あなたたち」である。
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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