NORI-☆
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五段活用?
サトシは歌が好きで、 かなりいい耳をしている。 聴きかじった歌を口ずさむということはよくあるが、 サビの部分しか覚えていなかったり 歌詞が聴き取れなくて鼻歌だったりするものである。 しかし、サトシは数回聴いて気に入れば、 かなり正確にフルコーラス歌詞つきで再現してみせる。 半音多用の複雑なメロディラインや前奏・間奏まで しっかり把握して歌うので、びっくりさせられることが多い。 ひらがなと英数字はかなり自由に読めるようになったとはいえ、 歌については耳から入る情報がすべてで、 歌詞の字幕などは一切見ていないらしい。 もちろん子供のことで、知らない言葉や英語などは 意味不明(だが確かに音は似ている)な言葉に 置き換わっているのがご愛嬌だけれど、 サトシが歌うのをきいて、 「ああ、あの歌はそういう歌詞だったのね」 と思うことも少なくない。 ところで私は、歌を聴くと歌詞を精読してしまう、 つまり、言葉の意味を考え解釈しよう性質があり、 意味が通じない、掛り受けがおかしい、 助詞が違う、目的語がない……と 日本語がおかしい歌と感じる歌には、 どんなにメロディがよくても違和感を感じてしまう。 倒置・省略・比喩・語呂合わせといった 詩ならではのひねりのある表現ではなくて、 単純に日本語の構成としておかしい、と感じる歌詞が 最近とても多いように思うのは、私だけだろうか。 それはまあいいとして。 そんな母の血を受け継いでか、 サトシもけっこう歌詞には敏感で、 一通り歌えるようになると、 「ママ、○○○○って何?」と歌詞の 意味や解釈を尋ね、着々と語彙を増やしている。 そんなサトシの最近のお気に入りは 歌詞を全部反対の意味にする替え歌である。 例えば、とっとこハム太郎のエンディングなら ♪言いたいこと Uuu… 何でも言える テストで100点取れちゃう か・も・ね ライバルチーム Uuu… 絶対勝てる 逆転ゴールも決めちゃう 。。。 を ♪言いた
くない
こと Uuu… 何でも言え
ない
テストで100点取れ
ない
か・も・ね ライバルチーム Uuu… 絶対勝て
ない
逆転ゴールも決め
ない
。。。 ということになる。 まあ、それも言葉を操る能力のひとつということで、 母はけっこう面白がって聞いているのだが、 ある晩、サトシがこう歌ったのには笑ってしまった。 ♪ 眠ら
ない
〜 眠ら
ない
〜 子リスたち〜 おもてにゃ みみずか
ない
…… 「みみずかない???」 この歌は知っている。サトシの音楽教室でやっている 『リスの子守唄』だ。否定形でない元歌は、 ♪ 眠れ〜眠れ〜 子リスたち〜 おもてにゃ みみずく 鳴くばかり ♪ 「サト、“みみずく”は動詞じゃないから “ない”はつかないよ〜(笑)」 母の指摘の意味がわかったのかどうかは知らないが、 何か間違いを指摘されたということが恥ずかしかったのか、 サトシは即座に 「あっそうか〜(^^;)」 と言って、 「ヒャ〜〜!」 と奇声を上げながら布団の上を転げ回っていた。 みみず-か-ない/みみず-き-ます/みみず-く/ みみず-く-とき/みみず-け-ば/みみず-け/ なるほど、「みみずく」が鳥の名前だと知らなければ、 五段活用の動詞ととらえることもできる。 (前後の脈絡と切り離せば、だけど(笑)) 活用語を逐一否定形に直していくという替え歌の法則 からすれば、まったく正しい操作なのである。 未然形の活用語尾も正しい。 本人はそれと知らず、正しい文法を身につけている! 母は密かな満足を覚えてにんまりした。 (サト、さすがはママの子……) 馬鹿親な思いをかみしめつつニヤリとすると、 再びさっきののどかな歌声と、 転げまわって照れる様子が思い出されて、 思わず口元が緩み、 「…みみずかない……ぶわはははは…」 と大声をたてて笑ってしまった。 身の置き所がないという感じで 照れて小さくなっていたサトシは、 母に笑いの追い討ちをかけられて、 「もう!そんなに笑わないでよ〜!!(--#) 」 とふくれていた。
2001年08月21日(火)
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