NORI-☆
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赤い流線形
週末に、実家がある団地の自治会が主催する 毎年恒例の納涼祭があった。 自治会有志が、ビールに枝豆、焼きそば、おでん、綿あめ、 金魚すくい、ヨーヨー釣りなどのお店を出し、 各家庭であらかじめ買っておいた食券を持って引き換え、 公園にシートを敷き、テーブルを並べて作った 即席のお座敷で飲み食い談笑して過ごすお祭りである。 自治会役員OBでお祭り好きな父は、 毎年張り切って設営や接客(?)に立ち働き、 母も近所の奥さんたちと焼きそば作りを手伝ったりする。 我が家も毎年このイベントにあわせて里帰りし、 お祭り気分を楽しんでいる。 去年この納涼祭で、サトシは初めて金魚すくいをした。 金魚すくいはなかなか幼児には難しいので、 あえなく紙が破れてしまった後、 お約束の「残念賞」金魚を3匹ばかりもらって帰ってきた。 是非に、とおじさんに頼み込んで 数少ない黒出目金を1匹入れてもらったのだけれど、 残念ながら、翌日には死んでしまった。 金魚すくいの金魚は、とても小さいうえに、 狭い水槽で酸欠状態で運ばれるということで、 長生きできるものは少ないらしい。 (可哀相な短い人生で、それをすくって遊ぶのも 何だか気がとがめるのだけれど…) 家に連れて帰ってもすぐ死んでしまうかもしれない、ということで 残る金魚たちはそのまま実家で飼ってもらうことになった。 じじばばは、「サトくんの金ちゃんたち」と呼んで 世話をしてくれていたが、いかんせん そういう運命を背負った魚たちのこと、 残る2匹も相次いで死んでしまった。 サトシががっかりするだろう、とじじばばが不憫がって ご近所から元気な金魚をもらってきてくれ、 大切に後継者として飼い始めた。 サトシによって「赤太郎」と名づけられた金魚は、 几帳面なケアのおかげで、なかなかよく育っていた。 覗き込むと喜んで寄って来るんだよ、とは だんだん情が移ってきた両親の談。 サトシは馬主ならぬ「金魚主」よろしく 遠隔地から自分の手を使わずに金魚を「飼っていた」わけだが、 それはそれで、彼なりに「赤太郎」を愛していたらしい。 実家に遊びに行くと、祖父と一緒に餌をやり、 ひらひら泳ぐ様を楽しそうに眺めていた。 そうして3ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ、 もうすぐ1年目を迎えようとしていたころ、 これは意外に長生きして、大きくなるのかも…という期待をよそに、 赤太郎はあっけなく死んでしまった。突然のことだったという。 サトシは直接見ていないので、さほどの衝撃は受けなかったようだが、 祖父母が悲しんでいるのを見て、 「またサトが金魚取ってきてあげるよ!」となぐさめていた。 そして、今年の夏祭り。 サトシは今年こそ自力で…とかなり意気込んで金魚すくいに挑んだが、 しかしやっぱりすばしこい小さな金魚を捕らえることはできず、 今年も「残念賞」で4匹の小さな小さな金魚をもらってきた。 4つの小さな赤い流線型が、 再び実家の玄関先でひらひらするようになった。 「デメキンは弱いから」といっぱしのことを言って、 今年は赤いのだけもらってきたのだった。 「名前つけたの?」 「うん!赤太郎」 赤太郎という名前は、サトシ金魚の名跡らしい。 「どれが赤太郎? 他のは名前ないの?」 「とみえちゃん」 「他は?」 「ごぼう君、ピーマン君」 「??…どれがどれなの?」 「さあ……」 サトシとしては、見分けのつかない金魚のどれが赤太郎で どれがごぼう君でも別にどうでもいいらしいが、 ママは名前は金魚にとっても立派なアイデンティティーだと思うので、 ちゃんと割り当ててやりたい。 そこで、金魚をじっと観察して、4匹の違いを見比べようと試みた。 よく見ると、一応、 体の大きさで、大2、小2のグループに分かれる。 さらに大の金魚の片方は全体がムラなく赤金色で、 もう一方は尾の先がすこしだけ白い。 そして、小の金魚の片方は口の先と尾の先が白く、 もう一方は全体赤でえらのところだけ金色が目立つ。 この違いを模式図にして、スケッチブックに色鉛筆で記録して、 サトシに改めて聞いてみた。 「どれを赤太郎にしようか?」 「全部赤いの!赤太郎だから一番赤いの!」 「口としっぽが白い小さいのは?」 「とみえちゃん!女の子だからおしゃれなの」 「しっぽが白い大きいやつは?」 「ごぼう君」 「じゃあ、えらが金色のがピーマン君なのね」 「うん!」 「………なんでごぼうとかピーマンなわけ?(^^;) 金魚の名前らしくないと思うんだけど?」 「おいしそうでいいじゃん!」 「…そう…(ごぼうもピーマンも食べないくせに…)」 ま、そういうわけで、4匹の名前が決まった。 しかし、なんでごぼうとピーマンなんだろう……(-_-;) トマトと唐辛子、とつけたなら納得するんだけどな… それから、「とみえ」っていうのは いったいどこから出てきた女名前なのだろう…… サトシのネーミングセンスは、不可解である。
2001年09月03日(月)
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