NORI-☆
My追加
不自由な自由 -自由研究への道- (1)
サトシ@一年生のはじめての夏休みの宿題は、 ○ 絵日記 … 二日分 ○ 朝顔の観察 … 画用紙1枚の観察記録用紙に、 「全体のようす」と「花」「実」「種」の それぞれの観察を文や絵で自由に書く ○ 読書カード … 本を読み題名と5行程度のコメントを書く(5冊以上) ○ 自由研究 ○ 夏休みのまとめ … 夏休みのはじめに「やりたいこと」「がんばること」 などの目標を終わりに「こんなことができた、 がんばった」などまとめを書く 夏休みの思い出ベスト3(10センチ角程度に絵や文で) 親からのコメント等。 それぞれの記述欄が1枚の画用紙の裏表に印刷されている。 この内容を楽勝とみるか、困難とみるかは意見の分かれるところだが、とりあえず最低こなさなければならない作業量としては、多くはない。 少なくとも、絵日記は、絵の得意なサトシとしては楽勝。 朝顔の観察も、毎日記録するのではなく、ポイント記録なのでよし。 読書…は、ちょっと気をつけて仕向けないとかな…でもまあ、40日で5冊なら(最低ラインだけど)大丈夫かな。 夏休みのまとめは、要するにまとめだから、最初と最後の日に親子で話し合って、まとめればいいよね。 ということで、だいたい見当をつけた。 問題は「自由研究」である。 「自由」研究なのだから、基本的には何をやっても「自由」、何か一つテーマを決めて自分なりに取り組めばいいということなのだが、自由ってやつは実はとても不自由なものである。 学校でもらってきた「自由研究のヒント」を見ると空き箱を利用した箱庭や空き瓶と紙粘土で作る鉛筆立て、押し花や昆虫採集、旅先で集めた石の標本など、いろいろな作品例が、具体的な材料や加工の仕方、親が手伝うポイントまで紹介されている。 読み書きを習い始めたばかりの一年生では、調べものをしてレポートを書くようなスキルはまだないので、「研究」というけれど、実質は「工作」なのである。 その製作過程で、工夫したり気付いたりすることがあれば、それで立派な「研究」になるということなのだろう。 (自然採集系は、たとえば親の郷里(いなかってやつだ)に半月も滞在して山や林で遊ぶような夏休みなら可能だろうが、東京生まれの共働き両親の家庭では無理なので却下) そんなわけで、工作作品、である。 サトシといえば、空き箱工作など日常的に作って始末に困るほどなので、楽勝といえば楽勝なのだが、そこはやはり「夏休みの自由研究」である。 普段思いつきでパッパと作るような、切りっぱなし、セロテープベタベタ、空き箱の絵柄そのままだけど形だけはそれらしい「見立て」ものではなく、(いや、それはそれでひらめきに満ちた立派な作品ではあるが)それなりに「作品」として完成度や達成感のあるものでなければ、と母は思うのだった。 では、何を作るか? 自慢じゃないが、私は工作も手芸もけっこう得意なので、このヒント集に載っているようなものを指導してサトシに作らせるのは、さほど難しいことではないような気がする。 ……しかし!それではつまらない。 ここに載ってるものそのまま作ってもしょうがないじゃない? まあ、1年生の工作スキルには限りがあるので、方向性としてはこのヒント集のどれかに拠っても構わないけど、まんまじゃ面白くないよね。 ヒント集のどれかをベースにして、ひとひねりした企画で、見る人をあっと言わせたい。 せっかくなら「サトシならでは」のものを作って欲しい。 普段サトシが興味を持っている事柄の中から、工作作品に昇華できるテーマをみつけ、具体化する。。。 …なんか仕事の企画を考えているような気分になってくる。 そのとき、サトシが学校から持ち帰った一枚の印刷物。 『夏休みに作って応募してみよう -作品募集一覧-』企業や団体が募集するキャンペーンポスターやら標語やら「夢の○○」アイディアコンテストやらの募集要件をリストアップしたものが10件くらい並んでいる。 「ママ、これ作りたい!『アイディア貯金箱』」 「どんな貯金箱作りたいの?」 「トラック貯金箱。お金入れると走るの、おもしろいでしょ?」 「なるほど…」 トラック型ということは、タイヤをつけた箱がベースで、お金を入れると走るということは、モーターと電池を入れて、お金を入れたときにスイッチが入るメカを考えればいいのかな…コインが入るたびに走るならシーソーみたいな受け皿とスイッチ、いっぱい貯まったとき、コインの重さに反応してスイッチが入るなら、底を二重にしてスプリングで支えて……… ざっと基本的なしくみを考えてみて、いけそうなら、パパに電気系の実制作をやってもらって、(パパはMYハンダゴテを持っている電気系工作の達人である)トラックの外側をサトとママが作ればいいかな。 いいじゃんいいじゃん♪乗り物テーマはいかにもサトだし。 よし、それ作ろう! ママの企画はすっかりサトシの初期発想からは乖離していたのだが、 この時点ではお互いにそのことに気付いていなかった。 しかし、この発想レベルの食い違いが尾を引いて、 自由研究制作は、のちに泥沼の展開となるのだった。。。。 サトシは思いついたらすぐにも作りたいと言う。 しかし、そんなメカを内蔵するならそれなりに、設計図を引いて、作業手順を考えて、じっくりやらなきゃ。 モーターだの銅線だのバルサ板だの、材料を調達しなければ! しかし、サトシは単に「トラック型の貯金箱」という思いつきをその場ですぐ形にしてみたかっただけで、材料も空き箱かなんかでよかったわけだし、 お金を入れると走るというのも、自分が手で押して走らせるくらいのことで満足だったみたいである。 さらにいえば、コンテストに応募するだの夏休みの自由研究にするだの、そういう打算も何もなかったのである。 ……… 結局、ママのメカ構想は、パパの 「そんな複雑なもの、サトシの工作には向かないよ」 という一言で敢えなく却下され、 サトシの一瞬のひらめきも、すぐ形にすることを阻まれたために、いつしか忙しい頭から抜け落ちてしまったようだった。 ≪つづく≫
2002年08月20日(火)
/