お参りに行ってきました。昼間の明るい時間を避け、夕方に。おかげで人は少なく、静かに過ごせはしたのですが…お供え物を狙ったカラスが着々と私の背後に集結している気配に恐れをなして、それほど長くはお祈りできませんでした。彼に怒られそうですが、真剣に怖かったのです。カラスの視線をあんなに感じたのは初めてです。 いつもの通りにお供え物を食べて(カラスが荒らすので置いて帰れない決まりなのです)、黒ビールを半分飲んで半分流して、霊堂をあとにしました。いつもと違う感慨はあれど、毎月通っていることもあるうえについ3日前にも来たせいもあって、我ながらあっけないほどのひとときでした。意識がカラスにいっていたせいかもしれませんけれどね。 そのあとにターミナル駅に出て、つき合いだした頃にいつも待ち合わせをした場所にしばらくたたずんでみました。初めて会ったとき以外は、いつもそこで待ち合わせをしたものです。改札口の斜め向かいの駅の柱に立って、彼はいつも文庫本を読んでいました。私が着くと、手ぶらのときはその本をジーンズのポケットに突っ込むことが最初私には気になって仕方が無く、新刊だろうと古本だろうと彼の本はいつもボロボロでした。 立っていると、改札の向こうから、遅刻したときの済まなそうな顔がやって来ないことが不思議でなりません。私の姿を認めてニッコリしながら近寄ってくる気がしてならないのです。こんなに、数分置きの電車から数えきれないほどの人が流れ出てくるというのに、なぜたった一人がいないのでしょうか。隣の女の子たちの待ち人は次々やって来るのに、わたしの待ち人は永遠に来ないのでした。私も昔したように本を読んだり、改札を眺め続けて、あきらめて、その近くの時々入ったカフェに行き彼の頼んでいたメニューを食べながら、またもや彼が駅の方からやってくるような気がして外を眺め続けていました。 「その時間」をひとりで家で過ごすことはできませんでした。友人といっしょということもできませんでした。一番好きと言っていたバーに行き、一番好きだった席に座り、お気に入りだったお酒を飲みました。ベンチ式の席なので、いても大丈夫なように隣を開けて。実は先日一度立ち寄っていたので、バーテンが私のことを覚えていてくれたので適度に話しかけてくれて、つられて常連らしき人たちと会話をしているうちに「その頃だろうと思われる数十分」が終わりました。はじめは一人で難しい顔をして本を読んでいたのですが、取り乱すことも無く過ぎて、彼には申し訳ないかもしれませんが少し安心をしつつ。 最近はそれほど飲んでいなかったことと、私があまり飲まないお酒だったので少々酔っていました。店から家までの長い道のりの車中、電車のなかで話したくだらないこと、恥ずかしがる私に頼み込んで手を握り嬉しそうだったこと、はじめの頃のドキドキした思いなどを思い出しながら、いつのまにか私は眠っていました。本当は起きていなければならなかったのです。眠ってさえいなければ、あのとき「つらい」というメールに気がついて返事をしてあげられたのに。どこまでいっても、私は、だめだったのでした。 やはり後を追うこともできず。
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