遠雷

bluelotus【MAIL

こんなところに
2005年09月13日(火)

母親と車に乗っていたところダッシュボードの下にあったヘアワックスを指し、これはわたしのものじゃないのか、と聞かれました。ずっとそのワックスが車の中にあることは知っていたのですが、それは父親のだと思っていました。男性用のものでしたから。ただ、ワックスなんて使ったことないはずなのに珍しいなと思いながら。

わたしのものではない。父親のものでもない。そして若い男性を乗せたことといえば、Hしかありません。女性用、男性用などは母親にはわかりませんでしたから、単に「○○ちゃんあたりが落としたのかも」と、友達のものにしてしまいました。会ったことはもちろんありませんが、母親もHとのいきさつを知っているのですから別に隠す必要はなかったのですが、なぜか、言えませんでした。Hのものかもしれないということを。

母親を下ろしたあと、ドラッグストアの駐車場に車を止め、あらためてそのワックスを見ました。ケースが、傷だらけというほどでないにしても、なかなか汚い。Hのものに間違いありません。つい匂いを嗅いでみましたが、プラスチックのケースからは何も臭うわけではなく、ふたを開けてみても、当たり前のようにワックス自体の匂いしかしませんでした。白いその中身は、半分よりちょっと多いくらいのこっていて、指ですくったような跡までそのままでした。触りたい、でもHの跡を消すこともできないと逡巡しながら、あまりの不意打ちの攻撃に耐えきれず車の中で泣きました。

Hが最後にこの車に乗ったのは、かなり前のことです。このワックスの存在にはわたしも家族もかなり以前から気がついていました。それなのに、最後に乗ったときから数えて2年近く経ったいま、このタイミングでわかったのでしょう。車の中で電話で話しながら喧嘩してわかれるわかれないと泣いていたときも、夜ひとりで運転しながらひたすら悲しくて辛くて泣いていたときもそのケースの横にあるティッシュの箱を幾度も引っ張りだしていたというのに。

ずっと、そこにいたのですね。



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