舌癌とともに生きて...サクラ メイ

 

 

TD病院 細胞検査結果 - 1987年03月12日(木)

切除した細胞の検査の結果が出る日が来た。

夫はまだぎっくり腰の具合が良くなく、私ひとりでTD病院に出かけた。



予約時間は午後1時だった。

病院には12時半頃着いた。



病院の古い建物、配管むき出しの廊下。

長い時間待たされた。

ひとりで待っていた。

まわりに待つ人が誰もいなくなったとき、名前を呼ばれた。

3時に近かったと思う。



診察室に入ると手術を執刀したH先生でない若い医師が開口一番こう言った。

「ご家族は?」

「結果を聞くだけですので、私一人で来ました。」

「そうですか。体調はいかがですか?」

「家事をした日に熱が出ました。」

「ああ、ムリはしないでくださいね。」



「ちょっとお待ちくださいね。」

そういうと若い医師は診察室にいた他の医師(4人ほどいただろうか)と部屋の隅でなにやらひそひそ話を始めた。


結果を聞きに来ただけなのに、何の話だろう?

ちょっと不審に思ったがじっと待った。





以下は若い医師の話。


あなたの腫瘍は場所が非常に悪いです。

先日の手術では切除しきれませんでした。

まだ治療の必要があります。

その治療法ですが、4つの方法があります。


1 思い切って舌を全部取ってしまう方法。

これが一番確実です。

しかし、あなたはまだ24さいです。舌を全摘するには若すぎると思います。

まあ、患者さんによっては「思い切りよく切ってくれ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、私はあなたに摘出はお勧めしません。



2 放射線療法

しかし、全快するまでの効果があるかというと、完全とはいいきれません。



3 薬を使う方法

腫瘍に効く薬を使います。これも完全ではないでしょう。



4 ラジウム針

ラジウムの針を患部に刺します。舌も摘出せずに済みます。私はこれを一番にお薦めします。

ただし、この病院にはラジウム針を使える施設がありません。これから紹介状を書きます。そちらにいらしてください。

病院はGK病院です。

名前からするととても怖い病院に聞こえますが、普通の病院です。大丈夫です。





細かい部分は忘れたが、以上のような内容だった。

癌の患者に、癌という言葉を使わずに検査結果の説明をし、癌の専門病院へ行けというのは、医師もそうとう苦心したのだろう。

あの時のひそひそ話は、どうしたものかという打ち合わせだったのだろうと今でも思う。





「GK病院の頭頸科のK先生の所へいってください。先生の診察日は水曜と金曜です。」

「水曜と金曜なら、いつでもいいのですか?」

今日TD病院で、明日GK病院では大変だと思ったので、こう聞いてみた。

その私の顔を、医師は悲しそうに見つめるとこう言った。



「明日行ってください。」



その『明日』という言葉を聞いたとき、私は初めて事の重大さに気づいた。

そして、診察室の椅子でひとり、泣き出してしまった。



...




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