2012年05月31日(木) |
白花への手紙(仮)105 |
「アルギリ草の汁を」 先生の声に、荷を入れた鞄の中から小さな小瓶を出す。アルギリ草。ティル・ナ・ノーグでは比較的手に入りやすい草で、煮詰めた汁は雑菌を殺す効果がある。原液だと濃度が濃すぎるから外出先では用途に応じた濃度に分けて使用する。先生に提出するレポートに書いてあったものだ。自分の手と患者の手が不潔にならないよう、清潔な手袋を着用し瓶の中身を少しだけ傾けて清潔な布に浸して。浸したものを同じく手袋をした先生に手渡した。 「少ししみますが我慢して」 言うと同時に患者さんの腕をまくって肘の内側を拭いていく。何回か拭いたのちに拭いた場所がうっすらと青みがかってきた。 「針と管を」 同じく細かくした針を長い管につなげたものを、針先が触れないように先生に手渡す。手渡した管──針が先生の手によって患者さんの腕の中に吸い込まれていく。 「ルートは確保した。次に繋げる薬液は?」 針と管を通して薬液を人の体に入れるという医療行為。俗にいう点滴だ。体の中に直接入るものだから、当然危険性もある。食事が取れないと言っていた。人間は口から入れた食べ物を胃から吸収して栄養を運ぶ。それができないなら今のように直接体に入れるしかない。だけど、患者さんは皮膚がかさかさに乾いていて、急に栄養を注入するのも心もとない。 「リリシア(栄養剤)の前に、アクエット(補水)……ですか?」 「その通り」 おそるおそるの返答に、先生は満足気にうなずいた。
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