「硝子の月」
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ほどなく一行は廊下の突き当たりにたどり着いた。そこには大きく重厚な樫材の扉が一つ、来訪者を出迎えていた。 案内役の青年がその扉を二度叩く。 「失礼致します『永き者の寵を受ける御方』。アンジュ・アルティアート・クリスティン様とお連れの方々がおいでになりました」 『ご苦労だったね』 分厚い扉を通しているとは思えない明瞭な女の声が、不思議な響きを以て応えた。 「なげー名前」 ティオが呟くと、青年はくるりと振り向いた。 「省略しては駄目ですよ。怒られてしまいますからね」 愛想のない少年に大真面目に注意を与える。この一行で一番それをやらかしそうな人物と見なされたのだろう。
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