日曜日に都内の美容院から帰ってきたあたりから「体調が悪い」と言い出したツマ。その日は早い時間に床に着いたが、翌朝、熱と酷い咳に見舞われそのまま会社を休んだ。ツマはもともと平熱が低い体質なので、ちょっと熱が出るとぐったりしてしまう。火曜日になっても熱は収まらず、引き続き仕事を休ませたが、どうも性質の悪い風邪のようである。 どうやら日中はなんとか体調も回復してくるようだ、とツマは言った。神経質なツマはそんな瞬間に家の掃除をしたり、洗濯物をやっつけたりしているようだった。「そんなことは俺がやるから――」とすこしいい格好をしてみせたが、 「オットの家事は万事ぬかりが多いので不可」 と言われた。 昨晩、家に帰ると、ツマは熱も下がり、朝よりは血色のいい表情で俺を迎えた。 「昼間、すこし気分が良くなったので、本を読もうと思ったんですよ」 「うん」 ネクタイを緩めながら俺は答えた。ツマは半纏を肩から掛けて、カーペットにぺたりと座った。 「オットの『古畑任三郎』、全3巻」 「あったね。本棚の奥のほうだ」 「そう。3冊まとめて本棚から引っ張り出したのね。1、2巻はそのままだったんだけど、3巻には本屋さんで付けてくれるカバーが付いたままだったの」 「ふむ」 「ベッドで、ずっと読んでたのね。それで、3巻を開いたら――」 「?」 「『生き人形』だった……」 「(爆笑)」 そうなのだ。もともと『古畑任三郎』は1、2巻しかない。ツマが3巻だと思いこんで本棚の奥から取り出した文庫本はよりによって『生き人形』だったのである。
『生き人形』――。 かの稲川淳二が体験した、戦慄の恐怖実話を劇画化した漫画です。詳しく紹介するのもアレなんで、参考までに。
http://books.rakuten.co.jp/mcc/NS/CSfLastGenGoodsPage_001.jsp?GOODS_NO=1179292&rbx=X
『生き人形』概要
|